CINEMA
勇気と知性と経験──その人、女優
その勇気、知性、経験が演技ににじむ 女優たちの存在感が際立つ初夏の注目作
今年の初夏に注目したい、女優たちの存在感が際立つ映画。ケイト・ウィンスレット入魂の『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』と、デミ・ムーアとマーガレット・クアリーが怪演を見せる『サブスタンス』。“女優推し”で2本の映画を紹介していく。
ケイト・ウィンスレットasリー・ミラー 伝説の報道写真家が遺したものとは
第二次世界大戦が激化する最中、その最前線で取材し、ノルマンディー上陸作戦やブーヘンヴァルとダッハウの強制収容所の残虐行為を目撃。さらにはヒトラーが自死した1945年4月30日当日、ミュンヘンにあるヒトラーのアパートの浴室でポートレートを撮って戦争の終わりを伝えた報道写真家リー・ミラー。女性の写真家が取材のために最前線に立つなど許されなかった時代に、いかにして道を切り拓いていったのか。そのすべてを懸けて遺したものとはなんだったのか。撮影監督として高く評価されてきたエレン・クラスが初めて長編映画で監督を務め、70年の人生のうちの10年に焦点を当て、歴史に名を残す報道写真家の本質を浮き彫りにする。
主演と製作総指揮を担うのはケイト・ウィンスレット。ドラマ『ブルックリン・ナイン-ナイン』(2013〜2021)や映画『パーム・スプリングス』(2020)などに出演し、コメディ俳優として人気を博すアンディ・サムバーグが、ミラーと行動を共にするフォトジャーナリスト役として新境地を開いている。さらにアレクサンダー・スカルスガルド、マリオン・コティヤール、アンドレア・ライズボロー、ジョシュ・オコナー、ノエミ・メルランらが集結し、映画を盛り立てる。
写真を撮られる側ではなく、撮る側でありたい。そう願ったひとりの女性が、男性優位の社会で大きな犠牲を払いながらも突き進んでいく姿に胸を打たれる。
point of view
ケイト・ウィンスレットは確かな演技力を持つばかりではなく、信念を持って作品を選び、演じていることが伝わってくる。『タイタニック』(1997)のローズ役で世界的スターになった彼女は、その後も大作映画で華やかな役柄を演じ続けることができたはずだ。だが、そうはしなかった。作品の規模は関係なく常に挑戦し、自身が演じたい役を演じ続けてきた女優であることが、そのフィルモグラフィに現れている。年を重ねて変化した容姿も武器にして演技にリアリティを備え、役柄の芯の部分を表現することに注力してきた。
そんな女優ケイト・ウィンスレットの本質は、報道写真家リー・ミラーのそれによく似ていると思える。いずれも確固たる信念を持ち、行動することに重きを置く女性たち。演じるべくして演じた、ということだろう。
ケイト・ウィンスレット自身、「とにかく私は彼女に惹かれた」と、リー・ミラーに大いに共感していたことを明かしている。役を演じたというより、役を生きたというほうがしっくりくるその姿。より多くを知り、固定観念を打ち破ってきた女性の真実が宿った演技を深く味わいたい。
『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』
https://culture-pub.jp/leemiller_movie
2023年/イギリス/116分
監督 | エレン・クラス |
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出演 | ケイト・ウィンスレット アンディ・サムバーグ アレクサンダー・スカルスガルド マリオン・コティヤール ほか |
配給 | カルチュア・パブリッシャーズ |
※5月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
©BROUHAHA LEE LIMITED 2023
デミ・ムーア×マーガレット・クアリー 脳裏に焼きつく激ヤバなボディ・ホラー
『REVENGE リベンジ』(2017)などを手がけ、天才と称えられるコラリー・ファルジャが脚本と監督を担い、第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞したほか、第97回アカデミー賞では作品賞を含む全5部門にノミネートされたボディ・ホラーの傑作。容姿の衰えから仕事が減っていくことを憂い、若さと美しさと完璧な自分が得られるという禁断の再生医療<サブスタンス>に手を出した元人気女優の姿を描き出す。
若さと美に執着する主人公エリザベスを怪演するのは、45年のキャリアを持つデミ・ムーア。<サブスタンス>を接種して生まれた“もうひとりの自分”スーとして弾けるのは、『哀れなるものたち』(2023)などに出演し、着実にキャリアを積み重ねるマーガレット・クアリー。そんなふたりの突き抜けた演技、ルッキズムや男性優位のエンタメ業界を徹底的に風刺しつつツイストしまくる脚本、強烈なビジュアルとサウンドが掛け合わさり、衝撃を受けつつ興奮が止まらなくなること間違いなし。ボディ・ホラー史上最もヤバい1本が誕生した。
point of view
演じ手自身がどんなキャリアを積んできたのか、人々や世界とどうかかわり、生き抜いてきたのか。『ザ・ホエール』(2022)のブレンダン・フレイザーがそうだったように、そのすべてが乗った一世一代の演技を観られることがある。本作のデミ・ムーアの演技はまさにそれだ。元人気女優でエリザベスとして胸もお尻も惜しみなくさらけ出しているが、そればかりがすごいわけではない。むしろ、心を丸裸にするほうがより勇気がいることだとデミ・ムーアは身をもって示している。改めて、そのコメディセンスにも感嘆。若さと美に執着する元人気女優の姿は、哀しいだけではなく可笑しくもある。観客を笑わせることこそ最高の風刺になるのだと理解した上で演じているのがよくわかる。
己の欲望に忠実に、どんどんヤバいほうへと進化していくスー役のマーガレット・クアリーもいい。カラッとした狂気とでも表現したくなるその姿。際立つルックスを持て余すことなく使いこなす様子からは、知性と勇気を持った女優であることが見て取れる。
そんなふたりの女優が終盤ではものすごいことになるのだが、詳しくは観てのお楽しみだ。“かわいい”が暴走して阿鼻叫喚! かつてないフィナーレにゾワゾワすると同時に笑いが込み上げること請け合いだ。
『サブスタンス』
2024年/アメリカ/142分/R15+
監督・脚本 | コラリー・ファルジャ |
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出演 | デミ・ムーア マーガレット・クアリー デニス・クエイド ほか |
配給 | ギャガ |
※5月16日(金)より全国公開
©The Match Factory