MUSIC
森山直太朗が見た、素晴らしい世界
森山直太朗が辿り着いた境地を描く 映画『素晴らしい世界は何処に』
2022年、デビュー20周年記念アルバム『素晴らしい世界』をリリース後、“全国一〇〇本ツアー”と銘打ちスタートしたアニバーサリーツアーは、およそ2年をかけ、<番外篇>となる両国国技館や海外公演を含め、計107公演に及んだ。
現在公開中の映画『素晴らしい世界は何処に』は、このツアー102本目となる両国国技館公演のライブ映像を軸としながら、幼少期に体験した両親の離婚のこと、死を目前にした父と母を引き合わせた病室でのやりとり、モノローグなどを加え、素晴らしい世界を求め続ける直太朗の姿を映し出す。
さらに真っ白なエンドロールに流れるのは、主題歌となる『新世界』。森山直太朗の圧巻のステージ、そして家族と向き合う姿に心揺さぶられ、きっと自身の人生をも振り返る1時間41分となるだろう。
取材・文/俵本美奈
人生が複雑に絡み合った20周年ツアー
──“素晴らしい世界は何処にあるのか”というテーマと向き合い、直太朗さんとご家族とのとてもパーソナルな部分まで映されていて。映画を観るうちに私自身、自分の人生と向き合う時間になっていました。
森山 ツアー自体が国内外合わせて107本という本当に長いツアーで、両国国技館はその集大成みたいなものだったので、自分も思い出深い公演でした。そして長いツアーだっただけに、舞台上で起こることやツアーの旅先で起こること以外のプライベートなことが、この『素晴らしい世界は何処に』というひとつのテーマに複雑に交わり合っていきました。
──2年かけて回る超ロングツアーですもんね。
森山 この映画は、LIVE DVDとBlu-rayを作っていく中で、劇場の大画面と素晴らしい音響環境で聴いてもらうことはできないかということを考えて、映像作品に落とし込んでいったら、番場監督がこんな風にライブだけでなく、いろんなドキュメントもないまぜになったものを作ってくれて。「これ、もしかして映画じゃない?」みたいな話になって、去年の10月に、関東・関西の4都市で上映したんです。
──それが今回、拡大されて…
森山 それで終わるはずだったんですが、この度全国で観ていただけることになりました。
──ツアーの始まりにはどんな思いがありましたか?
森山 もともとあまりビジョンは持っていなくて、ただただ100本やりたいという思いで始めたんです。僕は幼少の頃、母があまり家にいなくて、おばあちゃんに預けられて生活していました。母は日々レコーディングだったり土日はライブで地方に行くような生活をしていたから。今は年間100本やる人なんてほとんどいないと思うけど、うちの母親世代のフォークシンガーって、ディナーショーなども合わせたら120、130本以上回るという人たちばかりで。だから僕ぐらいのキャリアの人が30本とか60本でひいひい言ってちゃだめなんじゃないかという思いが心のどこかにあったのと、やっぱり負けたくないという思いもあって。そして、母親はどんな景色を見ていたんだろうという気持ちもありました。年中家を空けて、家族や子どものことを顧みずに、どんな脚光と孤独の中に身を置いていたんだろうというのを、自分の肌で感じたかったというのもありました。でもツアーが始まって、半分も経たないうちに、そんなことはあまり問題じゃなくなってきて。
──実際はそれどころじゃなく…。
森山 黙々と目の前の曲を歌いきっていくことの連続だったから、もう、それどころじゃなくなっていって。最終的には100本目の公演と101本目の公演のNHKホールの2DAYSで終わるはずが、自分の想像なんかふた回りぐらい超えて、両国国技館に行って、そこからアメリカや中国へ行って、最終的にこのように映画にまでなりました。
──劇中に挿入された映像では、「あなたは誰?」「現代の音楽の役割は?」など、ご自身と対話する場面もありました。
森山 あの映像は、両国国技館の前年の10月にNHKホールで行われたツアー100本目の千秋楽の翌日の追加公演のために作ったんです。千秋楽がバンドスタイルで行われて、追加公演となる101本目は、弾き語りとブルーグラスバンドとフルバンドスタイルという3部構成で行いました。間に休憩を挟んだので、その時間に何か映像を流そうということで作ったのがあの映像でした。ツアー中、密かに僕が裏アカウントにずっと呟いていたことを、ただ羅列していって、若干アングラっぽく作って。
──裏アカウント、ですか…!?
森山 事務所と監督が用意してくれた企画的な裏アカウントに、自分にしかわからないこだわりの話とか、ツアーのネタバレにもなるようなことばかりつぶやいていたんです。これは今初めて言います(笑)。
──それ、誰にも見つからなかったんですか?
森山 誰にも見つからなかったです。今はもう閉じているんですけど。
──すると、あの映像の言葉もすべて直太朗さんから出ていた言葉だったんですね。
森山 だから映画のために撮った素材はひとつもなくて。あ、螺旋階段の最初のシーンと銀座の歩行者天国で走る映像だけかな。最初はエンドロールも何もなくて、最後の『さくら』でブツッと切れていたんですが、やっぱり、映画に携わってくださった人たち、ライブに携わってきてくれた人たちの名前は載せたいという話を昨年の夏、編集作業をしている番場監督として。でも黒バックではないんだよなと思っていたら、監督も「それなら白ホリ(白バック)でいきたい」というので、一致しました。