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新春エンタテインメント・ムービー

笑って泣ける人情もの、胸アツ香港映画
2025年新春エンタテインメント・ムービー

 2025年新春のスクリーンにはエンタテインメント性の高い映画が続々お目見え。なかでも注目は、人間ドラマ×コメディで魅了する日本映画『サンセット・サンライズ』、胸アツ必至の香港アクション『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』。ジャンルは違うけれどいずれも観客をたっぷり楽しませてくれる2本を紹介する。



コロナ禍、移住先で見つけた新たな幸せ

 楡周平の同名小説を原作に、『あゝ、荒野』(2017)などを手がける岸善幸が監督を、次々とヒット作や秀作を生み続ける宮藤官九郎が脚本を務めて映画化。都会からやってきた会社員が宮城県南三陸の移住先で巻き起こすあれこれを描いていく。コロナ禍、東日本大震災からの復興、地方都市の過疎化といった社会問題、都会と田舎の人間の出会いがもたらすいざこざ、自然の恵みたっぷりのご当地グルメ。それらの要素をバランス良く組み合わせながら、“楽しい”と“感動”を同時に届けるエンタテインメント性の高い1本に仕上げている。

 都会から南三陸へと移住する主人公の晋作に、『あゝ、荒野』以来7年ぶりに岸監督とタッグを組む菅田将暉。軽やかにニュートラルにありつつ、グルメシーンでは最高の食べっぷりで幸せのお裾分けをしてくれる。晋作に家を貸す大家の百香に井上真央。深い傷を抱えながら生きる女性の複雑な胸のうちをしっかりと伝えている。さらに、百香の父の章男に中村雅俊、百香に思いを寄せる南三陸の男たちに三宅健、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、百香の同僚の仁美に池脇千鶴、晋作が勤める会社の社長に小日向文世と、個性と実力を併せ持ったキャストが集結した。

 誰になんと言われようと自分の心に正直に人生を楽しもうとする主人公が見つけた新しい幸せのカタチとは? ユーモアと人情が入り交じる移住物語、泣き笑い必至の映画時間となるはず。

“笑って泣ける”を極めた人情喜劇

 コロナ禍においてリモートワークが主流となり、趣味の釣りを楽しみながら暮らそうと都会から南三陸へと移り住んだ主人公。豊かな自然に囲まれ、食にも恵まれ、いいこと尽くしのようだが、現実に住んでみるとさまざまな問題が浮き彫りになるものだ。加えて、南三陸は東日本大震災で甚大な被害を受けた土地のひとつ。震災による傷が癒えきってはいないことを、何気ない日常のやり取りから伝えている。また秀逸なのが、悲しみ一辺倒で描いていないこと。“笑って泣ける”の理想型がここにある。社会問題と向き合いつつ、上手に生きられない人たちへ向ける眼差しはあくまでやさしい。そこに、老若男女に響くクドカンのユーモアが加わったらもう言うことはない。軽やかでありながら軽過ぎることはなく、しっかりと人間の心の機微をとらえ、胸を揺さぶられる物語としている。

 キャストもそれぞれがいい仕事をしている。晋作役の菅田将暉のニュートラルなあり方は観る人の心を穏やかにし、晋作の大家・百香役の井上真央はしっかりと“時間”を背負い、観る人を物語の深部へと誘っていく。百香の父・章男役の中村雅俊が体現した“東北の寡黙な男”は、さすが宮城県出身だけあって説得力が段違い。百香に思いを寄せる男たちを演じる三宅健、竹原ピストル、山本浩司、好井まさおも息の合った掛け合いで笑わせてくれる。

 さらに忘れてはならないのが南三陸のご当地グルメ。晋作が南三陸の名物料理をおいしそうに頬張る姿を観ているだけで、こちらも幸せな気分に。食もひとつのエンタテインメントになりえることを改めて伝えている。

 脚本、演出、演技がハマり、グルメが最高のアクセントとなって観る人に笑顔と涙と幸せを運ぶ人情喜劇。満足度の高い1本に仕上がっている。


『サンセット・サンライズ』

http://sunsetsunrise-movie.jp

2024年/日本/139分

監督 岸 善幸
脚本 宮藤官九郎
原作 楡 周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫)
出演 菅田将暉 井上真央 中村雅俊 三宅 健 池脇千鶴 竹原ピストル 小日向文世 ほか
配給 ワーナー・ブラザース映画

※1月17日(金)より全国公開

©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会