FLYING POSTMAN PRESS

テーマ別:冬のドキュメンタリー映画

冬のドキュメンタリー映画part2<夢追い人>
アイドルからオートレーサーに転身
不屈の男・森且行が歩んだ29年

 1988年に結成され、1991年にCDデビューしたアイドルグループSMAP。その人気絶頂期の1996年、幼い頃からの夢だったオートレーサーへと転身すべく、メンバーのひとり、森且行がSMAPを脱退した。5人のメンバーと「お互い日本一になろう」と誓った森は24年後の2020年11月、日本選手権で悲願の初優勝を勝ち取り、その約束を果たした。ところがそのわずか82日後、レース中の落車で命が危ぶまれるほどの大怪我を負ってしまう。それでも彼はあきらめなかった。朝の情報番組のディレクターとして落車後初のインタビューを行った穂坂友紀は、絶望的な状況においても「絶対に復帰する」とカメラの前で宣言した森の人間性に惚れ込み、森を追いかけることに。そして、完成させたドキュメンタリー『オートレーサー森且行 約束のオーバルへ』をTBSドキュメンタリー映画祭2023で上映した。ただ、その時点では森はまだリハビリ中だったため、このままでは終われないと密着を続行。2023年上映バージョンに、その後撮影した映像や本人へのロングインタビューを追加、再編集し、濃密なドキュメンタリー映画を作り上げた。

 なぜ、森且行は強靭な意志を持ち続け、復活することができたのか? 本作が浮き彫りにしたその答えとは――。

 まさに、不屈の男。幾度にも及んだ手術を乗り越える姿、壮絶なリハビリに耐え抜く姿、落車事故から17カ月後、久しぶりにオートバイを走らせ喜ぶ姿、麻痺の残る体を抱え、思ったように走れずカメラの前で弱音を吐く姿、バックヤードで丁寧に愛車を整備する姿、復帰戦で奇跡の勝利を飾った姿…。トップアイドルの座を捨ててオートレーサーに転身し、以降、29年にわたって夢を追い続ける森の真実の姿がここに刻まれている。

 本人へのロングインタビューはもちろん、その周囲の人々へのインタビューも丁寧に積み重ね、浮き彫りにした森且行の人間像。こんなに前向きで、こんなに情熱的な人間は観たことがないと思えるほどだ。そして胸を揺さぶるのは、過去に自身を支えてくれた、今の自身を支えてくれる人たちとの絆。自分のためだけではなく、大切な人たちのためにも挑み続けるオートレーサーの姿に熱いものがこみ上げてくる。SMAPのファン、オートレースのファンのみならず、すべての人を励ますヒューマン・ドキュメンタリー、ここに誕生。

『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』

https://autoracer-mori.com/

2024年/日本/94分

監督・編集 穂坂友紀
出演 森 且行
ナレーション 萩原聖人
配給 KADOKAWA

※11月29日(金)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほかにて全国公開

©TBS
©TBS 提供:公益財団法人JKA


遅咲きのインド人バレエダンサー
プロのダンサーになる夢を叶えるまで

 18歳の時にダンスに興味を抱いて自己流でトレーニングを積み、やがてイスラエル系アメリカ人のダンス教師イェフダ・マオールとの出会いを機に、プロのダンサーになる夢を追いかけていくインド人の青年の姿を5年にわたって記録。Netflix映画『バレエ 未来への扉』(2020)に本人役で出演したダンサーのマニーシュ・チャウハンが、数々の試練を乗り越えながら夢を叶えるためひたむきに努力する姿を映していく。監督を務めるのは元バレエダンサーの映像作家レスリー・シャンパインと、ドキュメンタリーやテレビドラマを長年手がけてきたピップ・ギルモア。マニーシュの成長と挑戦、マニーシュとイェフダの師弟関係を超えた深い結びつきに胸が熱くなるのはもちろん、ストリートダンス、バレエ、コンテンポラリーダンスなど、マニーシュが挑戦するさまざまなダンスシーンの映像のクオリティも高く、見どころは満載。青春サクセスストーリーとしても、アートなドキュメンタリーとしても一級品に仕上がっている。

 主人公はダンスをこよなく愛するインド人青年マニーシュ。バレエを習い始めたのは18歳。大抵のバレエダンサーが幼少期から踊り始める中、マニーシュは遅咲きも遅咲きだ。短期間で驚くべき成長を見せるも、バレエダンサーとして活躍するには残念ながら歳を重ね過ぎていた。そこで彼はバレエ以外のダンスに活路を見出し、プロのダンサーになるという夢を叶えるため、努力し続けていく。

 そんなマニーシュを支え続けるのはダンス教師のイェフダ。ふたりの関係性が素敵だ。イェフダはマニーシュの成長を願って自分のもとから旅立たせ、マニーシュはイェフダを家族のように気にかける。その深く結ばれた師弟関係は、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)さながら。喜びも苦しみもふたりで分かち合うその様子に、どうしようもなく胸が熱くなる。ドキュメンタリーだが、あまりに物語と登場人物たちが魅力的で、実話をベースにした感動の人間ドラマを観ているかのような気分になれる1本だ。

『コール・ミー・ダンサー』

http://callmedancer-movie.com/

2023年/アメリカ/87分

監督 レスリー・シャンパイン ピップ・ギルモア
出演 マニーシュ・チャウハン イェフダ・マオール
配給 東映ビデオ

※11月29日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国公開

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