FLYING POSTMAN PRESS

内山拓也×磯村勇斗、同い年の共闘

スクラップ&ビルドを繰り返す

──FLYING POSTMAN PRESSは<GOOD CULTURE, GOOD LIFE>をコンセプトに展開しています。おふたりの人生において、カルチャー作品に影響を受けたことはありますか?

内山 いっぱいあります。僕はカルチャーに恵まれた環境で育ったわけではないんです。映画というものにちゃんと出会ったのは、上京してファッションの学校に通っていた時。そこから映画を浴び続けていく中で、映画業界に携わりたいと思うようになって。それでファッションの道に進まず、アルバイトをしながら映画作りをめざすことにしたんです。僕は新宿武蔵野館で長くアルバイトをしていたのですが、その新宿武蔵野館にお客さんとして初めて行った時は衝撃でしたね。人生が変わった瞬間のひとつだと思います。当時、新宿武蔵野館で観て特に印象深いのが、『サラの鍵』(2010)。ユダヤ人迫害事件を取材する現代のジャーナリストが主人公の映画です。今を生きている僕らが経験しようのないことだけれど、知らなければいけないこと、語り継がなければいけないことってあるじゃないですか。そういうものに映画なら出会えるんだと。そう教えてもらった映画です。初めて観ながら強烈な匂いを感じた映画でもあったように思います。“匂いを感じる映画なんてあるんだ”と、それも衝撃でした。ほかにも、『鉄くず拾いの物語』(2013)、『サウルの息子』(2015)、『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』(2016)あたりの戦争映画は当時の新宿武蔵野館やシネマカリテで観て、どれも印象に残っています。

磯村 僕がよく覚えているのは、大学の時に授業で黒澤明監督の『羅生門』(1950)を観たこと。その授業には石橋蓮司さんもいらっしゃって、一緒に映画を観て、黒澤明監督のお話もお聞きしたんです。撮影の裏話をたくさんお聞きしてワクワクしました。授業の後はみんなでごはんを食べに行ったりもして。その時の僕は役者をめざしてはいたものの、まだデビューはしていなくて。食事の席で石橋さんに、「いつか役者としてご一緒できるようにがんばります」と伝えたことを覚えています。そこから、いつか石橋さんに作品でお会いするためにがんばってきたところがありますね。自分を奮い立たせてくれた時間、自分の人生を豊かにしてくれた時間でした。

──その後、俳優として石橋蓮司さんと共演することはまだ…?

磯村 まだできていません。いつか現場でお会いして、あの授業の日の話をしたいです。多分、石橋さんは僕のことは覚えていらっしゃらないと思いますが、それでも伝えられたらうれしい。今もなお、僕の目標です。

──映画の作り手側に立つ今の指針も聞かせていただけますか。磯村さんは“脚本”、内山監督は“想像力”を大切にしていると話してくださいました。

磯村 やっぱり僕は第一に脚本です。脚本がすべてだと言っていいぐらいです。脚本はカメラワークから役者陣の動きから、すべてのベースになるものですから。脚本を読んでそれをどれだけ自分の中に落とし込んでいけるのか。そこが肝心だと思っています。あとは現場ですね。現場ではいつ何が起こるかわかりません。自分の中ですごく考えて準備していったとしても、現場で自分の思っていたことから180度変わるなんてこともたびたびあるもので。そういう瞬間を逃さず対応していく。そこも役者として作品に参加する上で大切にしているところです。

内山 僕もやっぱり、第一に想像力を持って作ること。あと、映画をお客さんに届けるという行為は、時に痛みを伴わなければいけないものだと思っています。ものすごく深いところまで潜り、自分ができる準備を尽くし、痛みを感じながら作っていかないといけない。もうひとつ、磯村さんが言うようにたくさん準備しつつ、準備したものに固執しないことも大切だと思っています。僕も現場では“今起きていること”に集中したい。その上で風穴があいた瞬間を掴み取りたい。むしろ、現場で壊すために準備を徹底しているって言ってもいいぐらいですね。

──スクラップ&ビルドを繰り返して作っていくわけですね。

内山 そうですね。学生時代に先輩に「建設は死闘、破壊は一瞬」という言葉を教えてもらったことがあって。その言葉が今でも残っています。僕らが取り組んでいるのは、まさにそういうものなんだと思います。


内山拓也(うちやま たくや)

1992年生まれ、新潟県出身。初監督映画『ヴァニタス』(2016)がPFFアワード2016で観客賞を受賞。自主映画として製作した『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で劇場長編映画デビュー。新藤兼人賞の銀賞ほか映画各賞を受賞する。『若き見知らぬ者たち』は商業長編初監督作となる

磯村勇斗(いそむら はやと)

1992年生まれ、静岡県出身。近年の主な出演作に映画『PLAN 75』(2022)、『月』『正欲』(いずれも2023)、劇場アニメーション『めくらやなぎと眠る女』(2022)、ドラマ『演じ屋』シリーズ(2021/2024)、『不適切にもほどがある!』(2024)など。10月25日に映画『八犬伝』が公開される

『若き見知らぬ者たち』

https://youngstrangers.jp

2024年/日本/119分/PG-12

原案・脚本・監督 内山拓也
出演 磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太 滝藤賢一 / 豊原功補 霧島れいか ほか
配給 クロックワークス

※10月11日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開

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