FLYING POSTMAN PRESS

伊藤万理華と中川大志の挑戦的創作

伊藤万理華×中川大志の共演で贈る
風変わりな映画『チャチャ』の舞台裏

 自由奔放に振る舞うイラストレーターのチャチャが、謎めいた料理人の樂に出会い、恋をする。酒井麻衣監督が自ら脚本を書き下ろした映画『チャチャ』は、この筋書きを聞いてパッと思い浮かべるようなものではない。ラブストーリーのようでコメディでもあり、しまいにはサイコホラーの様相も呈し、目まぐるしくその印象を変えていく。ひとことで言えば、予定調和のない映画。先読みしがちな昨今の観客を、いい意味で裏切り続けてくれる。

 チャチャ役の伊藤万理華、樂役の中川大志が本格的に共演するのはこれが初。映画を観る楽しみを大いに味わえる本作はどう生み出されたのか。それぞれの課題はどんなものだったのか。チャレンジングな創作を振り返ってもらった。

写真:小田原リエ 
【伊藤万理華】スタイリング:和田ミリ ヘアスタイリング&メイクアップ:外山友香
衣装協力:ジャケット 82500円 スカート 51700円 ブーツ 74800円(すべてヨウヘイ オオノ 03-5760-6039) チョーカー 23100円(フミエタナカ/ドール 03-4361-8240)
【中川大志】スタイリング:リン リェン リー ヘアスタイリング&メイクアップ:堤 紗也香
取材・文:佐藤ちほ



自由に生きるチャチャに共感しながら

──映画『チャチャ』の脚本を最初に読んだ際の感想を聞かせてください。

伊藤 読みながら、“どんな映像になるんだろう? どう映画として組み立てていくんだろう? その映画の中で自分がチャチャとしてどうあるんだろう?”と、想像をかきたてられ、ワクワクする気持ちと不安の両方がありました。あと、チャチャのキャラクターにも共感できる部分が多かったです。

──どんなところに共感したのでしょうか。

伊藤 チャチャの同僚の凛(藤間爽子)がチャチャについて話すナレーションが冒頭にあります。周りにいる人の視点からの“チャチャのキャラクター紹介”みたいになっているところで。チャチャは本能のまま、右脳で生きているようなところがあります。人目を気にせず自分の好きな服を着て、好きなことを話し、好きなものを絵に描いているチャチャを周囲の人は、「個性的だね」とか、「アーティストだもんね」とか、いじっているのか、うらやましがっているのか、どちらなのかわからないような感じで受け止めていたりする。またその空気にチャチャ自身が気づいていないわけではなくて、気づきながらも好きに生きることを選んでいる。冒頭のナレーションを読んだ時、チャチャがそんな状態にあることが見えてきたんです。自分の好きに生きていくのか、それとも、人からどう思われているかを気にして自分の好きなものを我慢して生きていくのか。私もそういうふうに考えてしまったことがあります。結果的に私はチャチャと同じ選択をしました。本当の自分を隠さずに自分の好きなように生きていきたいと。チャチャの選択に共感できたからこそ、チャチャの内側に実際にどんな感情が渦巻いているのか、いろんなことをどう繊細に感じ取っているのか。そこまでちゃんと理解して演じたいと思いました。

──中川さんは脚本を読んでいかがでしたか。

中川 面白かったです。観ていただくとわかると思いますが、この映画は構成がすごく面白いんです。かなりチャレンジングな構成になっているという印象がありました。それと、今回僕が演じた樂という役もすごく魅力的だと思いました。多分、彼がまとっている空気感にちょっと憧れたのかな。樂はある種達観しているというか、怖いものはないように見えます。“どこか別の世界に生きているのかな?”と思ってしまうような樂のあり方は、僕にはまったくないものです。僕自身は周りの目を気にしてしまいますし、人とかかわる上で考え過ぎて疲れてしまうこともよくあるので。自分とは正反対の性格をしている樂を演じるのは新鮮であり、チャレンジでもありました。

──そんな樂を演じる上で軸としたのはどんなところですか。

中川 樂の中には虚無感、どうしても埋まらない穴みたいなものがあると感じていました。“何もない”ということを表現するのが本当に難しかったです。どうしたらそんな樂を演じられるかと考え、なるべくそぎ落としていこうと思いました。これまで役者として経験してきたこと、僕自身の生き方や考え方をできるだけそぎ落としていって、余計なことをせずにただただ存在してみようと。今回の現場ではとにかくそこを大切にしていました。