CINEMASPECIAL ISSUE
奥野瑛太が語る『心平、』と俳優業
福島に生きる家族を描いた『心平、』 主演・奥野瑛太が見つめた“今”
東日本大震災の3年後の福島を舞台に、そこに生きる家族の葛藤を描いた映画『心平、』が8 月17日より公開される。
奥野瑛太が演じるのは、主人公の心平。軽度の知的障がいがあり、原発事故によって農業という自身の仕事を失って以降、仕事はどれも長続きせず、父親には目を背けられ、妹には心配ばかりされている。奥野はそんな青年を演じるにあたって、山城達郎監督と共に入念にリサーチした上で、その人物像を結んでいったという。
心平として東日本大震災後の福島に立ち、家族と、福島という土地を見つめ続けた撮影の日々。その時間は奥野自身にとってはどんなものだったのだろうか。
写真:徳田洋平 スタイリング:清水奈緒美 ヘアスタイリング&メイクアップ:光野ひとみ 取材・文:佐藤ちほ
心平は地に足をつけて生きている
──映画『心平、』の主人公・心平を演じるにあたって、脚本段階から山城達郎監督とよく話し合われたとか。
奥野瑛太(以下:奥野) いろいろとディスカッションさせてもらいました。脚本を読んで僕が演じる心平という役柄をどう思ったかを山城監督と話していく中で、脚本も変容していきました。山城監督としては、心平が自閉症スペクトラムを伴う軽度の知的障がいであるということは変えたくないと思っていらして。ただ、脚本に描かれている心平の言動が果たして本当に自閉症スペクトラムの症状や軽度の知的障がい者のそれに当てはまるのかどうか。最初にいただいた脚本では、心平の具体的な自閉症スペクトラムと思われる行動や知的障がいがどのぐらいの段階のものなのかが見えづらかったんです。山城監督に正直にそうお伝えし、山城監督がイメージする“軽度の知的障がい者である心平”の言動が物語にどう作用していくのか。その部分に山城監督の確固たる尺度を持ってほしいとお願いしました。
──専門家へのリサーチも入念に行ったそうですね。
奥野 心平は自閉症スぺクトラムで知的障がいがある、という設定なのですが、ひと口に自閉症スぺクトラムと言ってもその特性のグラデーション・幅はものすごくあります。学術的にも日々更新していっている中で、その変化も含めてまずは自分たちが自閉症スぺクトラムをちゃんと理解しないといけないと思っていました。生半可な気持ちで扱っていいものではないと思っていたので。それで最終的に専門家の方についていただき、山城監督と一緒にいろいろ話しました。「自閉症スぺクトラムで軽度の知的障がいがある方はこういう人柄がよく見受けられます」とか、「そこまで動作が過剰になると多動性も目立つので、違う症状も併発していますね」とか、「この言葉による会話の受け答えは、IQ指数が設定よりも低いやり取りになってしまうので重度の知的障害という扱いになりそうです」とか、細やかに指摘していただきながら、心平として落ち着く段階を一緒に探していきました。その結果、映画に映っている心平の感じになっていった、というところです。
──観客は心平の視点からこの世界や人々を見つめることになります。どこまでも純粋な心平の目で見た世界にはどこかファンタジー感もあり、だからか、寓話的な映画という印象も受けました。
奥野 それは確かにあると思います。心平は絶対的にピュアだからこそ、ほかの人たちが社会性の中で流してしまう部分を流せなくて、いちいち引っかかる。「それが正しいってこの間言われたんだけど、なんでみんな忘れているの?」という、その連続のような気がします。また心平の生き方は、地に足をつけている生き方だとも感じていました。人間の歴史というのはそういうものなのかもしれませんが、東日本大震災が起こる前までも、日本も積み木を積み上げるだけ積み上げていっていたわけですよね。それで目に見える形で崩れ去った。かつ、なんとか成り立たせるために、東日本大震災後もまた細かな積み木を重ね続けているように思います。そんな中、損得勘定や利害関係なしに地に足をつけて生きている人。それが心平だと思うんです。ずっと変わっていない心平がいる。その心平が主人公だからこそ、周りの人たちは変わっていってしまったことに気づいてハッとする。そういうことが生きていくことに繋がるドラマになるのではないかと思いました。