映画『銀河鉄道の父』役所広司&成島出監督舞台挨拶(大阪)「どこか隙だらけでユーモアと愛嬌がある父親」

  • 関西

宮沢賢治の生涯を、父親の視線を通して活写し究極の親子愛を描いた門井慶喜の同名小説を映画化した『銀河鉄道の父』が5月5日(金)より公開される。
4月11日(火)にTOHOシネマズ梅田 別館・アネックスにて舞台挨拶付き特別先行上映会が行われ、上映前には宮沢賢治の父・政次郎を演じた主演の役所広司と成島出監督が登壇。さらに原作者の門井慶喜も急遽登壇したスペシャルな大阪舞台挨拶の模様をお届け!

宮沢賢治の父・政次郎は
イクメンのはしり!?


——宮沢賢治の父、政次郎を演じられた主演の役所広司さん、成島監督、ご挨拶をお願いいたします。

役所 大阪の皆さん、こんばんは。役所広司です。今日はお忙しい中お越しいただきまして、本当にありがとうございます。この映画が面白かったら皆さん宣伝してくださいね(笑)。よろしくお願いします。

成島監督 大阪の皆さん、こんにちは。監督の成島です。実は最初に役所さんとお仕事をご一緒したのが大阪でした。 我々の原点にこうして今日戻って、この映画を皆さんに観てもらえて感無量です。今日は短い時間ですけど楽しんでいってください。お忙しい中ありがとうございます。

——最初におふたりがご一緒に大阪でお仕事をされたのは何年前くらいでしょうか?

成島監督 30年以上前ですよ。

役所 とにかく、シャブが体質に合う男の話でした。

——それからおふたりはたくさんの作品でご一緒されていますが、成島監督、役所広司さんはどのような俳優さんでしょうか?

成島監督 お師匠さんの仲代達矢さんが(役所さんの芸名を)お付けになった通り、(役所さんが前職で)役所に勤めていたということと、「役所広し」と何でもできるようにということが命名の理由だそうですが、まさにその通りです。毎回いろんな役をやってもらいますけど、それを感じています。素晴らしいです。


——役所さんからご覧になって成島監督はいかがでしょうか?

役所 成島監督は『しのいだれ』(『大阪極道戦争 しのいだれ』)('94)、『シャブ極道』('96)で脚本を書かれていて、その頃から仕事仲間ですし、友人でもあります。たくさんの映画を知っていて日本映画に対する愛情がとても深い人なので、本当に信頼している監督です。


——今回の『銀河鉄道の父』は宮沢賢二の家族に焦点を当てた作品ですが、これを映画化しようと思われたきっかけをお聞かせください。

成島監督 直木賞を受賞された「銀河鉄道の父」という原作との出会いが一番です。政次郎さんという方は本当に厳しい方であんまり笑わず、最後だけ宮沢賢二を褒めたというのが(宮沢)清六さんの記録に残っていて、政次郎さんという人はすごく厳しい人だという印象があったんですけど、門井(慶喜)先生の本を読んで目から鱗でした。政次郎さんは明治の時代にイクメンのはしりみたいな、親バカで賢治という天才を育んだということがビックリというか面白くて、これは「役所さんにやってもらおう」と。普通はシナリオにしてから(役者さんに)オファーするんですけど、役所さんと菅田くんには原作をそのままお渡しして、「どうぞ読んでください。絶対(映画を)やりますから。絶対やってください」とそんな感じでした。


——そのオファーを聞かれた時の役所さんの率直なお気持ちはいかがでしたか?

役所 成島監督から久々にお声が掛かったのでやらなければと思い、門井先生の原作を読ませてもらいました。僕は宮沢賢治について不勉強であまりよく知らなくて、ましてやお父さんの政次郎さんのことは全く知らなかったんです。だから、かつて仲代達矢さんや渡哲也さんという重厚な俳優さんが(政次郎さんを)演じておられましたけど、僕は門井先生の書かれた政次郎さんのイメージでした。厳格そうにしているけれど、どこか隙だらけで子どもたちに甘い、とてもユーモアがあって愛嬌があるタイプの父親像だと思って面白いなと思いました。これが今回の『銀河鉄道の父』の中で政次郎の一番魅力的な部分かなと思って役を作っていきました。お父さんも本当に文学が好きな方で、賢治の作る話とか物語に関しては理解があったんじゃないでしょうかね。

——すごくチャーミングなお父様というイメージでしたが、監督から役所さんに演技のオーダーはされましたか?

成島監督 いや、ないですね。役所さんとご一緒させてもらう時はいつもそうなんですけど、意中の通りなので残念ながら修正するところがないんです。たまに演出したくなって「こういう風にやってみますか?」と言って演じてもらうんですけど、役所さんが考えたプランの方が良くて、「ごめんなさい。さっきのに戻してください」というのが10回やったらだいたい10回(笑)。理屈じゃなくて身体に全部入れて演じてくださっている。こっちがちょっと頭で考えたものはやっぱり頭でっかちの芝居になっちゃうんです。それは毎回本当に勉強になっています。

——本来の宮沢賢治のお家があったところは岩手県花巻で、地方ロケではすごくきれいな景色がたくさん登場しています。役所さん、ロケの撮影で思い出に残っていることはありますか?

役所 僕は花巻の景色のいい場所での撮影はあまりなくて、岐阜県恵那市というところの撮影が多くて1ヵ月ぐらいいました。そこで撮影した古いお家の梁の一つひとつがすごくて美しかったです。

——お家はセットではなくて探してこられたのでしょうか?

成島監督 制作部が探してくれました。100年、200年と歴史のある建物の中で宮沢家を作れたので、そこのリアルはすごく映画にできたかなと思います。あと、古い建物の中にランプの灯りがうまくマッチして映画的な効果にもなってるかなと思うので、その辺も楽しんでいただければと思います。

——ランプの灯りだけで撮影されたシーンはありますか?

成島監督 はい。

役所 これまであんな暗いところで撮影したことはなかったかな。昔に(スタンリー・)キューブリックがろうそくなどの灯りのためにカメラを作ったというお話を聞いたことがありますけど、今は(撮影)できるんですね。

——役を演じる上で、暗い中は雰囲気があって役に入り込めますか? それとも少しやりにくかったり、セットが見えにくかったりされますか?

役所 やりやすいです、僕は。文章を読んだりする時は老眼だから暗いとちょっと見えづらいですけど(笑)、ランプだけというのは雰囲気があっていいですよ。

——岩手県花巻市のイベントでは、宮沢賢二が残した本当の手帳をご覧になったと伺いました。

成島監督 そうですね。花巻に行った時に役所さんと森七菜ちゃんと「雨ニモマケズ」の詩が書いてある貴重な手帳を見せていただきました。宮沢和樹さん(祖父は本作にも登場する宮沢賢治の実弟である宮澤清六)が管理をされていて、花巻は戦争で空襲にあったんですけど、奇跡的に助かって(手帳が)残っていたんです。

役所 小さくてちょっと開きすぎると破れてしまいそうなぐらい痛んでいるんですけど、それが丁寧に保管してありました。宮沢賢治さんが世に出すつもりで書いたのではなくてメモとして書かれた詩ですけど、本物はやっぱりすごいですね。

成島監督 すごかったですね。本当に世に出すつもりがなくて、清書もしていなくて。本物を見た時に、詩の持つ意味みたいなものがぐーっと来ましたね。

役所 たぶん原作者の門井先生も見ていないんじゃないですかね。


安心はしたけれど
遺族や原作の先生に会うのは役者としては怖い


——これから会場の皆さんに映画をご覧いただきますが、ここがポイントだというところをお教えください。

成島監督 いろいろありますけど、ろうそくの灯りから始まって最後はランプの銀河鉄道に乗るんですけど、今日は大きなスクリーンなのでその映像も楽しんでもらえればと思います。

役所 僕は政次郎の21歳から演じているのですが、21歳になるためにメイクさんとかカツラ屋さんとかが頑張って工夫してくれました。それを楽しみにしていてください(笑)


——ぜひ、その辺をポイントにして観ていただけたらと思います。 先ほど原作者の門井先生のお話も出ておりましたが、実は門井先生が会場に来てくださっています。門井先生、ご登壇ください。

門井 原作者の門井慶喜でございます。本日は皆さん、お忙しい中お集まりくださってありがとうございます。先ほど話にもありましたが、(「銀河鉄道の父」は)岩手県花巻の話で、「銀河鉄道の父」という本は東京の講談社から出版されております。でも、そもそも僕がこれを書いたのは、実は大阪でございます。私、大阪在住で、大阪の寝屋川の狭い部屋でひとりで一生懸命書いたものがこうやってたくさんの方に読まれ、たくさんの方の手を借りて、こうやって素晴らしい映画になって、たくさんの方を本日をお迎えすることができて誠に感無量でございます。ちなみに宮沢賢治の手帳は見ておりません(会場から笑いが起こる)。編集者と宮沢賢治記念館に行った時に手帳のレプリカを買いました。レプリカなので手帳は開き放題です(笑)


——ありがとうございます。成島監督、役所さん、大阪の皆さんの前で門井先生にお話聞きたいことがあればお願いします。

成島監督 原作を読んで感動して、どうしても映画にしたいと思って、大阪を訪ねて門井先生にお会いしたのが最初でした。2018年ですかね? 門井先生の江戸もの( 「家康、江戸を建てる」)も好きです。(原作を)映画化する時に原作者の方は、映画化とはいえ原作通りにして欲しいとおっしゃる方と、「ご自由にしてください」という方がいらして、門井先生はどっちかなと思っていたんですけど、先生は「お任せします」と言ってくださいました。

門井 実は僕は既に『銀河鉄道の父』を2回観ているんです。今日これから皆さんと一緒に3回目を観るんですけど、2回とも普通の観客として泣いちゃって。自分が原作者だということを忘れて、普通のお客さんとして映画の中に入ってしまいました。ちなみに今日で3回目ですが、ハンカチは忘れずに持ってきております(笑)。本当に素晴らしい映画を作っていただいて、ひたすら感謝しております。

——役所さんはこうして原作者の方にお会いになるのはどんな思いですか?

役所 怖いですよ。(門井先生に)「僕はそんな風に書いていません」とか言われるんじゃないかと思って。でも、門井先生が試写会の時に「観客として楽しみました」とおっしゃってくださって安心しました。ご遺族の方や原作の先生に会うのは役者としては怖いです。

——でも、門井先生は役所広司さんのお父さんぶりですごく泣かれたわけですよね。

門井 「初めでグッときて中盤で泣いて、最後のクライマックスでまた泣いてしまった」と成島監督に言ったら「泣くのはやっ!」と。監督にそう言われる原作者もなかなかいないですよね(笑)

成島監督 門井先生が試写室から目を真っ赤にして出ていらしたので、その瞬間に(成島監督がガッツポーズをしながら)「よしっ!」と。何も聞かなくても、門井先生が目を真っ赤にしていて安心しました。作った側としては、原作の先生にそんな風に観ていただいて嬉しいです。

——監督にとっても原作者の方の反応はちょっと怖いですよね。

成島監督 本当に怖いです。原作も面白いので、(映画と本を)両方楽しんでいただければ。映画ではどうしても描ききれなかった結構大事なところもたくさんあるので、原作を読んでいただけるとさらに物語の深みがわかると思います。

門井 僕が言いたかったことを言ってくださって、ありがとうございます。

——門井さん、ご登壇ありがとうございました。では最後に成島監督、役所さんからご挨拶をお願いいたします。

成島監督 先ほども言いましたけど、この思い出深い大阪で皆さんに観ていただけることは本当に嬉しく思います。この映画は2018年ぐらいから始めたんですけど、その後コロナ禍になって家族や大事な人が亡くなっても手も握れない。そして、ウクライナの戦争で家族が引き離されたりとか、そんな中でも家族と一緒にいられることはどれだけ素晴らしいかということを、この映画を作って時間が経った中でつくづく感じました。この映画をいいなと思ったら応援してくれたら嬉しいです。今日はありがとうございました。

役所 こうしていろんな裏話というか情報を与えてしまって、ちょっと嫌だなぁと思われているお客さんもいるかなと思います。僕たちはユーモアとか笑いの部分も大切にして作ってきました。大阪の人は笑いについては非常に厳しいと思いますけど、気楽に楽しんで観ていただけると嬉しいです。今まで成島監督の元に集まったスタッフ、キャスト、みんなで頑張って作ってきましたので、ぜひたくさんの人に観てもらいたいと思います。もし面白かったらいろんな人に勧めてください。どうぞ、今日はゆっくり楽しんでください。ありがとうございます。


『銀河鉄道の父』
出演役所広司
菅田将暉 森七菜 豊田裕大
池谷のぶえ 水澤紳吾 増岡徹
坂井真紀 / 田中泯
監督成島出
原作門井慶喜「銀河鉄道の父」(講談社文庫)
主題歌いきものがかり「STAR」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給キノフィルムズ
©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

5/5(金・祝)より全国公開