日本福祉大学×『ロストケア』公開特別授業に松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、前田哲監督、葉真中顕(原作)が登壇

  • 名古屋

松山ケンイチと長澤まさみ、初共演の二人が入魂の演技で激突する、社会派エンターテインメント、映画『ロストケア』が3月24日に公開。

日本福祉大学・美浜キャンパスにて映画『ロストケア』を通して介護について学ぶ公開特別授業が行われ、主人公・斯波宗典を演じた松山ケンイチ、斯波を追い詰める刑事・大友秀美を演じた長澤まさみ、検察事務官・椎名幸太を演じた鈴鹿央士、本作の監督を務めた前田哲監督、原作「ロスト・ケア」の著者・葉真中顕が登壇。社会福祉学部で介護殺人の予防などを主な研究テーマとする湯原悦子教授とともに公開特別授業を行った。

本編を見た学生からは、「私も約4年間在宅介護をしていて、映画内で親子の言い争うシーンなどは、私の家庭でも日常的にあったので、この映画は介護者と被介護者の過剰な演出ではなくて、リアルにある家庭の問題を映していると思った」と実際に若くして介護を経験した立場からの感想があがり、また別の学生からは「この映画をフィクションだと思ってはいけないと強く感じた。劇中の“見えるものと見えないもの”ではなくて“見たいものと見たくないものがある”というセリフが印象的で、“見たくないもの”こそ大事なものであって、学生としてどうやってそれを解決していくのか考えていかなければならないと感じた」という熱のこもった声が上がった。

学生と同年代の鈴鹿は学生からの感想を受けて「問題提起できる映画にしっかりなっているなと改めて思い、嬉しかったです。僕と同世代の方は、実際に介護をしたことがない方がほとんどだと思うので、この映画で介護について考えるきっかけになってほしい」と語り、印象的なシーンとして「(劇中で)綾戸智恵さんが演じていた刑務所にいれてほしいと言う高齢者の方も実際にいるというのを聞いて、撮影中不思議な感じがあり印象に残っています」と、それに対して前田監督は、「実際にそういう事態になっている高齢者の方もいるからこそ、あのシーンから始めたかったので、そう感じてくれてよかったと思います」と話した。

今回の原作「ロスト・ケア」を執筆した頃のことを葉真中は「私がたまたま介護をしなければいけなくなって、実際に当事者となり、突然やってくると。何も準備をしていない状況で分かったのが介護は色んなレイヤーがあるということなんですよね。日本社会で“格差”と言われるようになった時代で、お金とか家族間の密度とかで同じような状況なのに人と人の間に物凄い格差が生じていた。同じような年代で同じような病気になったのに、天国と地獄のようになってしまい、更に介護業界の混乱が重なりすごいことになっている事を肌で感じたので、それを小説にしようと思いました」と自らの経験も踏まえて作品の背景を明かした。

監督は本作の映画化について、「原作と2013年に出会って、憤りやすごく熱い想いを感じて、映画化しなければならないと思って始まりました。今でこそヤングケアラーという言葉も言語化されましたけど、それまでは無自覚にそういう状況に陥ってることがあったと思うんですね。映画にどれだけの力があるか未知数ですが、映画を観た人が話題にすることが一つのきっかけになる。ニュースでも見出しで素通りしてた人がその内容を読んでみる、そういう興味を持ってもらうことが社会を変えていく原動力になると思っています」と想いを明かした。

更に授業では介護殺人について掘り下げ、42人もの老人を殺めてしまった斯波へどのような刑罰が必要なのかについて検事役を演じた長澤は「とても難しい問題なんですが、斯波がした行為というものは許されるものではないと思いますし、厳しい刑罰を受けるということは必要なのかなと思います。だけど、斯波自身は自分がしたことに対してこれは“救い”だと、彼の正義のもとに語っているものなので法的な刑罰というのが、斯波にとってそれが罰として捉えられたのか難しそうに思います。だけど、斯波自身は自分がしたことに対してこれは“救い”だと、正義のもとに語っているものなので、法的な刑罰というのが、斯波にとってそれが罰として捉えられたのか難しそうに思います。悪いことをしたから罰を与えるということだけではないと感じました」と話した。

父親の介護で追い詰められていく息子の演技をとてもリアルに演じた松山。劇中でも介護者が直面する困難が様々描かれている今作で斯波の役柄について、「すごく意識したところがあるんですが、斯波は皆さんと何も変わらない、異常者ではないというのを大事にしました。外側からみていると事件ということだけで見てしまって、誰かに助けを求めれば良いのにと思ってしまうと思うんですけど、そうではない状況が裏側にある。立場に寄って見てる景色が全く違う。それを防ぐために、誰かと話したり介護することを共有する、どういうセーフティーネットがあるのか調べる選択肢を持っておいてほしいと思いますね。結局こう思うのも余裕がある人が出来る。余裕がなければ今目の前にいるお父さんの介護で精一杯になってしまう。周りの人たちが孤立させないことが大切です。皆さんもこれから介護を経験されたり、介護の仕事に携わっていく方もいると思いますが、介護についてたくさんの人と共有していくことで救われる命が増える可能性があると思う。学んだ人だけが見えているものではなくて、たくさんの人が見えていないといけない課題だと思います」と学生たちに語りかけた。

最後に、本作を通して斯波のように介護殺人を起こさないために、「支援者の立場としてサポートすることがあったときには、目の前にいる人達の背景に思いを馳せてほしい。介護者へも支援が必要。そして何よりも大切なのは一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持つこと」と今回のテーマを学生たちに呼びかけ、公開特別授業が終了した。


【STORY】

早朝の民家で老人と介護センター所長の死体が発見された。犯人として捜査線上に浮かんだのは死んだ所長が務める訪問介護センターに勤める斯波宗典。彼は献身的な介護士として介護家族に慕われる心優しい青年だった。検事の大友秀美は斯波が務める訪問介護センターで老人の死亡率が異常に高いことを突き止める。この介護センターでいったい何が起きているのか?大友は真実を明らかにするべく取り調べ室で斯波と対峙する。「私は救いました」。斯波は犯行を認めたものの、自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」だと主張する。斯波の言う「救い」とは一体何を意味するのか。なぜ、心優しい青年が未曽有の連続殺人犯となったのか。斯波の揺るぎない信念に向き合い、事件の真相に迫る時、大友の心は激しく揺さぶられる。「救いとは?」、「正義とは?」、「家族の幸せとは?」、現在の日本が抱える社会と家族の問題に正面から切り込む、社会派エンターテインメント映画が、今幕を開ける!

『ロストケア』
監督前田哲
出演松山ケンイチ 長澤まさみ
鈴鹿央士 坂井真紀 戸田菜穂 峯村リエ 加藤菜津
やす(ずん) 岩谷健司 井上肇
綾戸智恵 梶原善 藤田弓子/柄本 明
原作葉真中顕「ロスト・ケア」(光文社文庫刊)
主題歌森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック)
配給東京テアトル 日活

3月24日(金)よりミッドランドスクエアシネマ他にてロードショー