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「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2020」短編3本が2月26日(金)より一般公開
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「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2020」で制作された短編3本が、2月26日(金)より東京・角川シネマ有楽町ほか全国で順次公開される。「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」とは、優れた若手映画作家の発掘と育成を目的とした人材育成プロジェクト。プロジェクト参加監督は、プロのスタッフの指導のもと、オリジナル脚本、35mmフィルム撮影で短編映画を制作する。今回、本プロジェクトに参加した3名の監督に話を聞いた。
今年はオンラインでの取材。左から、植木咲楽 監督(「毎日爆裂クッキング」)、木村緩菜 監督(「醒めてまぼろし」)、志萱大輔 監督(「窓たち」)
―このテーマにした理由、想いを教えてください。
植木:食べ物をモチーフにした作品を撮りたい、というところから作品作りが始まりました。私が生まれてから25年の間、社会の状況がどんどん悪化しているなという実感があって。仮にコロナ禍でなかったとしても、空気は冷たいし、人間関係は重苦しい。こうした圧迫感や抑圧感といった、誰もが感じたことのある題材を盛り込んだ作品を描きたいと思いました。
木村:4年ほど前に1〜2時間ほどの映画を制作したいと思って、用意していた脚本があり、今回その脚本をもとに30分の作品に仕上げました。脚本を書こうと思った当時は、大切な人が自分から離れていってしまったり、自分が大切にしていた場所、おばあちゃんと暮らした家がなくなってしまったりと、喪失感をとても感じた時期でした。大切な人や、大切なものが失われていく中で、自分はどのように生きていけば良いのかと考え、書いた脚本です。
志萱:結婚もしていない、付き合いたての楽しげな感じがあるわけでもない、そんな夫婦と恋人の狭間に落ちてしまったような男女を描きたいと思いました。「めんどくさいね」という言葉が、映画のキャッチコピーになっていますが、やっぱり(劇中の朝子と森のように)他人と過ごすことは楽しいことばかりではなく「めんどくさい」ことだと思います。でも、そのことを「めんどくさい」と思うだけで終わらせるのではなく、それを「めんどくさい」と言える喜びと言ったら良いのか…そうしたものに焦点を当てて制作しました。
―こだわりのシーンや、心がけた点は?
植木:作品の中で、主人公の文はパワハラ上司の皆月に追い詰められていきます。その中で、弱いものの味方となることが大事だと思っていたので、表現する中では、「頑張っている人たちに何か失礼なことをしていないだろうか」ということを常に意識していました。弱い立場の方を描く時には、ちょっとした言葉や描き方が、作者の意図しないところで観る人を傷つけてしまう場合があります。今作では、そうした方に誠実であろうという思いを大切に、制作していきました。
木村:「行き場のなさ」のようなものを表現するために、あき子と吉田がボートの上で将棋を指すシーンは、絶対に俯瞰で撮ろうと決めていました。教室が海に沈んでしまうシーンでは、自分のおばあちゃんの家にあった木や、鳥居のようなものも一緒に沈んでいるんです。大切なものがすべて沈んでしまったというこのシーンは、大事に撮ろうと思って撮影に臨みました。また、撮影にあたっては、劇中通りの時間帯に撮影しようと心掛けていました。早朝の場面なら早朝、夕方の場面なら夕方。その時間でしか写し取れない情景を大事にしたいなと思い、頑張って撮影しました。その中でも電車内での撮影は特に大変でした。狙った時間、狙った場所で撮影することに苦労しましたが、こだわっただけの画が撮れたのかなと思っています。
志萱:まずは等身大でいようということは思っていました。こだわりのシーンは、夜の横断歩道を前に立ち止まる朝子と森が、点滅する信号の明かりに照らされるラストシーンです。このラストカットで、ふたりはお互いに目を向けます。何も問題は解決していないんだけど、ただ、ふたりの目が合う。それがどれだけ大事かということを描きました。また、朝子がひとりでお風呂に入っているシーンがあります。ここでは、涙は流していないし、内心も吐露していません。でも、お風呂の水滴が涙にも見えるように、水滴1粒で何か表現できないだろうかと考えて撮影をしました。
―植木監督の作品は、観ていて痛快さを感じました。こうした感情を与えるために工夫されていたことなどはありますか?
植木:暗い話を暗く撮ってもどうしようもないので、軽めなテイストにしようと、スタッフさん、役者さんと話していました。重苦しい状況の中で、主人公が少し希望を与えてくれる女性と出会い、そこからラストに向かっていくという心情の流れを主演の安田さんとも確認し合い、大切にしたから、そうした痛快さを感じていただけたのかもしれません。
―今後挑戦したい点や、課題に感じた点は?
木村:30分という尺の中で、パワハラ上司の皆月を描くには、私の現在の技量ではどうしても強調しないと描くことができなかったので、このあたりは技術をあげたいなと感じました。また本作では東京と三浦半島が舞台になっています。2つの場所を行き来するというのは以前からやりたいと思っていたことで、行き来する面白みは今後も追求したいなと思いました。
―木村監督の作品は、主人公・清水を演じた小野花梨さんのみせる、言うに言えない微妙な感情の表現が印象的でした。
木村:撮影ではできるだけ本番の回数を重ねたくなかったので、本番に至るまでに俳優部とは綿密に話し合いをしました。なかなか言葉にできないような感情を、ひたすら言語化して、できる限り100%に近いところまでを共有できるよう、お互いの言葉を尽くしあって進めていきました。その上で、本人が演じやすいタイミングを見て、本番は一発で撮影しようという思いで臨みました。
― 志萱監督の作品は、枝分かれした坂道や階段など、雰囲気のある場所が印象的でした。ロケーションはどのように決められたのでしょうか。
志萱:最初にロケーション場所を探してくださる方から、いくつか場所の候補をあげてもらい、その中で気になった場所は、昼や夜に散歩をしに行って雰囲気を見たり、その場所をどう物語とリンクさせていくのかを考えたりして決めていきました。撮影したのは、早稲田や目白台のあたりなのですが、とても雰囲気の良い場所でした。
―世の中の男女が観ていてリアリティを感じる部分が多い作品だと感じました。リアリティや、キャスティングの部分について教えてください。
志萱:キャスティングでは、最初に決定していた小林さんを軸に、他の方を決めていきました。関口さんは別の役でオーディションに来てくださっていたのですが、そこで「最近オーラを見てもらったら緑でした」と話していて(笑)。その羽が生えているような良い意味での軽さが、森に合っているのではないかと感じ関口さんにお願いをしました。また、撮影に入るまでに、朝子と森を演じてくださった小林さん、関口さんと会える機会が何度かありました。プライベートな話も色々とさせていただいたり、台本についても話をしたり。感じていただいたリアリティというのは、自身の実体験であったり、台本によるものであったりもしますが、小林さんと関口さんとの気兼ねのない雰囲気の中で生まれたものでもあるのかなと思います。
劇場公開は東京のほか、愛知・ミッドランドスクエア シネマで3月12日(金)から18日(木)、大阪のシネ・リーブル梅田で3月19日(金)から25日(木)にかけて実施。舞台挨拶も予定されている。
■公式HP http://www.vipo-ndjc.jp