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絵を描かない監督が、なぜ日本アニメーション界を代表する巨匠になったのか?その軌跡を追う。
- 福岡
日本のアニメーション界を牽引し続けた巨匠・高畑勲監督(1935~2018)。高畑氏が遺した
資料を一堂に紹介する初の大規模回顧展「高畑勲展 〜日本のアニメーションに遺したもの〜」が4月29日より開幕した。
初の長編演出を務めた「太陽の王子 ホルスの大冒険」から「アルプルスの少女ハイジ」、「赤毛のアン」などTV名作シリーズを築き上げた70年代、さらに「じゃりン子チエ」や「火垂るの墓」など、日本の庶民生活や戦中・戦後の歴史に目を向けた80年代、そしてデジタル技術を駆使し、手描きの線を生かした水彩画風の描法に挑んだ2013年の遺作「かぐや姫の物語」までを網羅。常に今日的なテーマを模索し、その中で相応しい技法を徹底的に追求した革新者・高畑氏。戦後日本のアニメーションの礎を築き、その後、多くのアニメクリエイターに大きな影響を与えた創造の軌跡は必見。絵を描かない監督がどのようにして歴史に残るアニメーションを作り続けたのか?その「高畑演出」のこだわりを制作ノート、絵コンテ、原画・セル画、映像などの貴重な資料によって紐解いていく。独自のリアリズムで生活に密着した内容は、子供だけではなく大人も楽しめる展覧会になっている。
point of view
第1章「アニメーション映画への情熱」
1959年の東映動画(現・東映アニメーション)入社後、アニメーションの演出助手時代に手がけた「安寿と厨子王丸」(1961)、TVシリーズの「狼少年ケン(1963~65)」を展示。若き日の高畑氏がみせた新人離れした技術と才能を作品と共に紹介。さらに劇場用長編初演出(監督)となった「太陽の王子 ホルスの大冒険」(1968)で同僚と共に試みた集団製作の方法も公開。複雑な作品世界を構築していくプロセスに光を当て、なぜこの作品が日本のアニメーション史において画期的であったかを明らかにする。
第2章「アニメーションの新たな表現領域を開拓」
誰もが知る「アルプスの少女ハイジ」(1974)に始まり、「母をたずねて三千里」(1976)、「赤毛のアン」(1979)という一連のTVの名作シリーズで新境地を切り拓いた70年代の作品群。毎週一話を完成させる時間的制約があるにも関わらず表現上の工夫を凝らし、丹念に日常生活を描写することで、生き生きとした人間ドラマを創造した過程を紹介。宮崎駿、小田部羊一、近藤喜文、井岡雅宏、椋尾篁らとのチームワークを絵コンテ、 レイアウト、背景画などによって検証し、高畑演出の秘密に迫っている。
第3章「過去と現在の対話」
80年代以降、舞台を日本にした作品群を展示。映画「じゃりン子チエ」(1981)、「セロ弾きのゴーシュ」(1982)で描かれた日本の風土や庶民の生活のリアリティーを資料と共に振り返る。さらに、その取り組みが発展し、1985年に設立参画したスタジオジブリにおいて、「火垂るの墓」(1988)、「おもひでぽろぽろ」(1991)、「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994)という日本の現代史に注目した作品群も紹介。日本人の戦中・戦後の経験を現代と地続きのものとして語り直す話法の創造によって、これまで子供向け・大衆娯楽といったイメージのあったアニメーションを芸術へと昇華させた軌跡を辿っていく。
第4章「新たなアニメーションへの挑戦」
アニメーションの表現形式へのあくなき探究者でもあった高畑氏。90年代には絵巻物研究に没頭して日本の視覚文化の伝統を掘り起こし、人物と背景が一体化したアニメーションの新しい表現スタイルを模索し続けた成果「ホーホケキョとなり の山田くん」(1999)と「かぐや姫の物語」(2013)の貴重な原画などを展示。デジタル技術を駆使し手描きの線を活かした水彩画風の描法に挑み、従来のセル様式とは一線を画した表現、美術への深い知識に裏付けられた高畑のイメージの錬金術を紐解く本展最大の見どころ。
「高畑勲展 〜日本のアニメーションに遺したもの〜」
会期:4月29日(木・祝)~7月18日(日)
※月曜日休館(ただし、5月3日(月・祝)は開館、5月6日(木)は休館)
時間:午前9時30分~午後5時30分(最終入館は、閉館の30分前まで)
※ただし、7月の金・土曜日は午後8時まで開館(最終入館は閉館の30分前まで)
会場:福岡市美術館(福岡市中央区大濠公園1-6)
https://takahata-ten.jp/