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『劇映画 孤独のグルメ』お礼行脚in名古屋

  • 名古屋

インドのタージマハルの前で
「腹が減った」の孤独カットを撮りたい

 原作:久住昌之、作画:谷口ジローによるハードボイルド・グルメ漫画『孤独のグルメ』。深夜にひっそりと実写ドラマの放送がスタートするや、食欲をそそる料理と松重豊演じる井之頭五郎の大胆な食べっぷりや心の声に多くの共感を呼んだ。国内のみならず海外でも絶大な支持を得てシーズン10まで重ね、“グルメドキュメンタリードラマの金字塔”として大人気長寿ドラマシリーズとなった。そんな『孤独のグルメ』が劇映画となって、1月10日(金)より全国公開中だ。

 監督・脚本・主演を務めたのは、12年にわたり井之頭五郎を演じてきた松重豊。主題歌は、松重と兼ねてより親交のあった甲本ヒロト率いるザ・クロマニヨンズが、本作のために書き下ろした『空腹と俺』。観客のお腹をガツンと空かせてくる力強い楽曲だ。さらに、第29回釜山国際映画祭<オープンシネマ部門>と、第37回東京国際映画祭【ガラ・セレクション部門】へ正式出品され、深夜のグルメドラマの枠から飛び出し、ワールドワイドにスケールアップ。大ヒットを記念したお礼行脚としてミッドランドスクエア シネマで開催された舞台挨拶に、監督・脚本・主演の松重豊が登壇した。


──まずはご来場の皆さまにご挨拶をお願いします。

松重 こんにちは、松重豊です。皆さんお腹空いたでしょう? この後美味しいところに食べに行ってくださいね。僕らは移動で結構バタバタしていてゆっくり食べる時間がなかったのですが、鬼まんじゅうをいただきました。大河ドラマ『どうする家康』の撮影でNHK名古屋によく来ていた時、共演者で愛知県出身の山田裕貴くんが鬼まんじゅうの差し入れをよくしてくれたのを思い出しましたね。あと、コンパルのエビフライサンドも食べてきたので僕は今とても幸せな気持ちです。聞くところによると、ミッドランドスクエア シネマでは「背徳の満腹セット」を購入することができるんですよね? ポップコーンと唐揚げとポテトがついたボリューム満点のセットということで、それを食べた方はこの1時間50分を耐えられたんじゃないかなと思います。映画の中でいろんな食べ物が出てきますが、皆さんはどれがいちばん印象に残っていますか? 最初に出てきたオニオングラタンスープを食べたいなという人、手上げてください。この建物の4階にある文化洋食店 nouveauさんではオニオングラタンがとても有名らしいです。あと、ラーメンを食べたいという方はいらっしゃいますか? JR側に一風堂さんがありますよ。劇中のラーメン屋「サンセリテ」の店主をオダギリジョーくんが演じてくれていますが、そのオダギリくんが着ている服が、実は一風堂ニューヨーク店の店員さんと同じなんですよね。ラーメンも監修していただいたり、実際に店の前でキッチンカーを持ってきていただいたり、一風堂さんには大変お世話になったので、ぜひ皆さん帰りに食べていってくださいね。


 挨拶の後はすぐ質問コーナーへ。当たると松重からサイン入りの井之頭五郎の名刺のプレゼントがもらえるということで、多くの手が挙がった。

──『孤独のグルメ』で行ってみたい国はありますか?

松重 この作品はドラマ時代から韓国と中国と台湾でとても人気があって、以前韓国編を撮ってみたら人だかりができるぐらい、韓国のお客さんにも楽しんでいただけました。それで図に乗って映画も撮ってしまいました(笑)。この作品なら世界中どこへ行っても成立すると思うので、ぜひリクエストしてください。なんとか実現できるように頑張ります。アジアはどんどん行ってみたいですし、南極料理人とのコラボやアフリカも面白そうです。今回はフランスに行ったので、イタリアやスペインもいいですね。

──冒頭のフランスのシーンで、エレベーターが小さくて五郎さんが入れなくて苦労する描写がありましたが、たまたま小さいエレベーターだったのですか? それともフランスのエレベーターが小さいのですか?

柳葉 よくぞ聞いてくれました! フランスって本当にどこを切り取っても絵になるような景色で溢れています。地震が起きない国だから築100年以上の建物が多くて、外枠は変えずに中をどんどんリノベーションしていきますが、100年前にエレベータースペースは作られていないんですよね。だから、あのエレベーターも階段の踊り場を利用して作られていて、実はパリで非常にお世話になったレストラン パージュというフランス料理店の手島竜司シェフのご自宅なんです。僕らが泊まっていたホテルがパリなのになぜか「ホテルロンドン」という名前で(笑)。そこのエレベーターはスーツケースがあると人が入れないくらいもっと狭くて、パリにはそういうエレベーターがたくさんありました。

──なぜ劇映画を作ろうと思ったのですか?

松重 深夜ドラマ枠では良い環境でドラマ作りができることってなかなか難しいんですよね。良い人材がNetflixやAmazonに行っちゃったり、頑張っている若い人たちがテレビの世界で面白い未来を描けなくなってしまったり、という現実があります。僕がいつまでも番組を続けることはできても、若い人たちが活躍する場所ではなくなってしまったら、僕のモチベーションもなくなってしまいます。だからこそ、面白い作品を作りたい若い人たちが夢を持てるような場所にしたくて、1回大風呂敷を広げて映画を作ろうと思いました。映画監督さんと作ることも考えましたが、有名監督さんと映画クルーに僕らのテレビチームが飲み込まれてしまったらもったいないので、うまく共同作業ができるように、僕が監督・脚本・主演としてパイプとなってテレビスタッフを繋ぎとめて、なんとか上映までもってくることができました。でも意外と大変な道のりは今日まで続いていますが、公開が終わってそれなりの結論が出るまで頑張らせていただきます。

──今回の五郎さん、小食でしたよね?

松重 映画が1時間50分なので、始まって20分で満腹になってしまわないように、お客さんの空腹感を持続させるように、あえて食べ過ぎない方がいいかなと思ったんです。でも最近の僕は食べすぎる傾向がありまして、 年齢とともに小食になったと思われるんですけど、食べすぎで尺に収まらないという問題もあったので、映画では自制していますね。あと、今回はお店選びからメニュー選びまで全部僕がやりましたよ。

──機内食を2回も逃すシーンが特に印象に残っています。今後は機内食や新幹線の中で食べるものも視野に入れていますか?

松重 最初に映画のシナリオを書いた時は、韓国と日本をメインにしようと思っていましたがロケが難しくて、「だったらパリにしよう!」と僕がわがままを言いました。さらに、「エッフェル塔の前で孤独カットを撮らないと絶対面白い映画にならないよ!」と言ったら、プロデューサーに「無理です、無理です」と返されたものの、すぐにJALのタイアップを取ってきてくれたんです! せっかくJALで移動させていただけるので、そのシーンも面白おかしく作りたいなと思って、五郎には寝てもらって食べ損ねてもらいました(笑)。パリまで15時間以上かかるので、普通2食も食べ損ねたらどんな気持ちになるだろうと。「目覚めた方はこのボタンを押してください」というものがありますが、それが2枚あったらショックだろうなと思って、あのシーンができました。新幹線など今後の展開はまだ分からないですね。興行収入10億円いかないと私、降板しますので。とにかく皆さんの力にかかっています。よろしくお願いします。

──ドラマだとお店の店員さんは俳優さんが演じていると思いますが、今回は本当にお店の方がやられているとお聞きしました。

松重 深夜ドラマの枠を超えた映画版ということで、実際のお店で本当に身近に行ける場所だと迷惑がかかってしまうというのは頭の中にありました。でも今回のお店は、パリの「ル・ブクラ」と韓国・釜山の食堂「ジニの店」と五島列島の「みかん屋食堂」。どこも聖地巡礼は難しいだろうなと思いますが、本当に素敵な店なので機会があれば行っていただきたいです。ロケハンからお店の出演交渉まで僕もやっていて、そうしたやりとりの中で、本当の店員さんとの心の交流ができてきました。変に俳優さんを使うよりも、僕を相手に自然なやりとりを撮れば、絶対にいちばん素敵に撮れるだろうなと思っていたら、3人とも見事な女優っぷりを発揮してくれました。映画なのかドキュメンタリーなのか分からないという部分もぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。あと、銀座にある「たらちゃん」という韓国のプゴクスープをメインで出している素敵なお店を、ラーメン屋「サンセット」の舞台として使わせていただきました。

──もし続編が決まったら何を食べますか?

松重 映画が完成してから1年ぐらい経っているので、次がどんな展開が面白いかなとずっと頭の中で考えています。何度も言いますが、僕には興行収入10億円が課せられているので、それを達成したら本当に次のことを考えます。今、面白いなと思っているのは、最初の孤独カットはインドのタージマハルの前でやりたいなと。スパイスを巡る旅はどうですか? 日本人でカレーが嫌いな人はほぼいないんじゃないかなと思うので、カレーのスパイスで冒険してみるのはいかがでしょうか。どうか皆さまのお力で、僕たち孤独チームをインドに連れて行ってください!…とつい言ってしまいましたが、「面白かった」と一言周りの方に宣伝していただければ幸いでございます。

 最後のフォトセッションでは、観客に手を振り孤独カットの表情まで作ってくれる、「お礼行脚」ということば通りのサービス精神をみせた松重。大盛り上がりのうちに舞台挨拶は締めくくられた。


『劇映画 孤独のグルメ』

https://gekieiga-kodokunogurume.jp

2025年/110分/日本

原作 『孤独のグルメ』 作/久住昌之・画/谷口ジロー(週刊SPA!)
監督 松重 豊
脚本 松重 豊 田口佳宏(「孤独のグルメ」シリーズ)
出演 松重 豊
内田有紀 磯村勇斗 村田雄浩 ユ・ジェミョン(特別出演) 塩見三省 / 杏 オダギリジョー
配給 東宝

大ヒット公開中

©2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会