エンターテインメントフリーペーパー FLYING POSTMAN PRESS

FLYING POSTMAN PRESS

MONKEY MAJIKのインタビューはこちら

SPECIAL ISSUE 岩井俊二監督 INTERVIEW

日本を代表する映画監督・岩井俊二が果敢に動いている。新作映画『friends after 3.11【劇場版】』では、震災後に改めて感じた“友だちの絆”をテーマに据えつつ、原発問題に真っ向から挑んでいる。3.11以降、明らかに変わったこの日本で誠実にモノを作り続ける彼に、映画の話や原発問題、“日本のエンターテインメントの今とこれから”を尋ねてみた。

友だちに対する想いを見つめ直そうと思った

――震災当時とこれからの日本、特に原発問題についてさまざまな人々が自身の見解を語るドキュメンタリー『friends after 3.11【劇場版】』。この映画の企画が立ち上がった経緯を教えてください。
「『朝日ニュースター』(※1)というニュースチャンネルがひとつのポイントになっていて。このチャンネルでは震災後、いろんなことに惑わされずがんばっていた。『パックイン・ジャーナル』という番組でも原発問題に真っ向から取り組んでいて、僕も当時よく観てたんです。それで『ロックの会』(※2)の主宰であり、反原発の想いを持つ仲間でもある松田美由紀さんと一緒に『朝日ニュースター』に震災後一度激励に行きまして。そこで“なんか1本作りませんか?”という話になり、『ロックの会』も巻き込んで2時間くらいのものを作ろうということになったんです」
――“friends”というキーワードはどこから?
「京都大学原子炉実験所助教の小出先生や中部大学総合工学研究所教授の武田先生。そういう方々のブログや記事を、元々僕自身よく読んでいたんですね。会ったことのない人たちでしたけど、自分の中では友だちのような親近感を感じていて。ともすれば命を救ってくれるかもしれない情報を提供してくれる人たちですからね。ぜひ一度みなさんに会ってお話を伺い、お礼を言いたかった。それと同時に仙台出身の僕には被災地に友だちもたくさんいるんです。この番組とは関係なく、去年の5月にプライベートで津波の被害にあった地域に行ったんですが、その時僕はなかなか被災者にカメラを向けることができなかった。その中で、唯一カメラを向けることができたのが自分の友だちだったんです」
――本作でも被災地に住む監督の友人や親戚の姿を、生々しい被害の爪痕と共に映されていますね。
「結局は友だちだったんですよ。3.11に起こったことは耐えがたい悲劇であり、まさに未曾有の大災害だったわけですが、でもこんなことが起こると人と人との間には強い絆が生まれるんですよね。平和な空気に覆われていた震災前のほうが、かえって人間関係は希薄だったと思うんです。改めて自分の中の友だちに対する想いを見つめ直したいなと、“friends after 3.11”というタイトルとコンセプトが生まれました」
――私自身も震災後にインターネットでさまざまな情報を検索し、会ったこともない人たちと深く繋がっているような気がしていました。まさにその時期にインターネット上で出会った人々がこの映画の中に登場されていて。原発反対運動を行う学者や元・原子炉の設計者、ジャーナリスト、映画監督など、それぞれの視点から原発問題が語られ、改めて考えるきっかけをもらったような気がします。
「上杉隆さんのようなジャーナリストからは“メディアの問題”が飛び出し、原子炉の元設計者の後藤政志さんからは“そもそも炉心はどうなっているのか”ということが語られるわけです。専門家の想定するイメージは一種類じゃないんだなと、僕もつくづく思いましたね。でも、決して意見がぶつかっているわけではない。お互いの意見を交換していけばいいだけの話ですからね」
――どちらが正しいかではなく、さまざまな意見を聞くことに意味があると。
「ええ、それであとは自分で判断していく。それでいいと思うんです。それにしても専門家の方の話は、驚くべきことばかりでした。実は今まさにパート2の製作を進めていて、先日、映像ジャーナリストの広河隆一さんにインタビューしたんですね。広河さんがおっしゃるには、そもそも“1年間に許容される放射線量の被ばく限度が年間1ミリシーベルト”(※3)とか、そういう放射能関連の数字自体が結構でたらめな計算から導き出されていたりするんだと。例えば、東京の白金で白血病の患者が25人発生したとしますよね。白金という街での発生率を導き出そうとすると、普通は白金に住む総人口を分母にして計算します。ところが、その分母を東京都全体とか、ひどい時は日本全体の総人口にして計算するようなことをWHOやIAEAが平気でやっていると」
――そんな計算をしたら、実際よりも大分少ない発生率になってしまいますよね!?
「ええ、限りなく0に近付きますよね。“間違っていませんか?”と指摘されたら訂正はするそうです。最終的には正しい数字に直す、と。つまりは最初の印象をできるだけよくしようということなんでしょう。ニュースは第一報が大きく出ますからね。“間違えました”というニュースが出た時には、小さくしか載らないんですよ。放射能は目に見えないものだから、我々としては数値を信じたいじゃないですか」
――でも、その数値が操作されている可能性があると考えると…怖いですね。
「本当に怖いです。ただもうひとつ言うと、そもそも“安全基準”なんてものは、一概には出せないんじゃないかとも思っていて」
――どうしてですか?
「人間の細胞は、最初はたったひとつの卵子から分裂を繰り返し、最終的には60兆ほどになると言われています。60兆の細胞を持つ大人もいれば、まだ10兆ほどの子どももいるということです。確かに60兆の細胞を持つ大人なら、100個や200個の遺伝子が粉砕されても残りが大分あるから心配は少ないのかもしれない。でもそれが子どもならと考えると…本当に怖いですよ。60兆の人と60個の人と、安全基準が同じでいいわけはないですよね」
――そうですね。…何を信じればいいんでしょうか?
「“今どれだけ放射能が出ているか”という数値を見ていくしかないですよね。それをきちんとひとりひとりが見ていって、どこまでを許容範囲にするか。自分自身で決めていくしかないんだと思います」
  • (※1)朝日グループのジャーナリズムテレビチャンネル。記者クラブ問題などメディアへの自己批判や、積極的な反原発報道を繰り返すなど、報道専門チャンネルとして熱心なファンを抱えていたが、本年3月一杯で社員が全員退職、事実上消滅となる。
  • (※2)女優・写真家の松田美由紀が主宰する“環境を考えるコミュニケーションの会”。岩井俊二監督を始め、各界の著名人たちが多数集い、原発問題などの未来を考えている。
  • (※3)放射線の規制値は各機関でさまざまだが、最も一般的になのは国際放射線防護委員会(ICRP)で認定している“年間被ばく量1ミリシーベルト以下”という値。福島の原発事故発生後の4/19、文部科学省は福島県内の小中学校や幼稚園などで校舎や校庭を利用できる目安として、“年間被ばく量20ミリシーベルト以下”と暫定的に基準値を引き上げた。また、ベクレルとは“放射性物質が放射線を出す能力を表す単位”であり、シーベルトとは“人が受ける放射線の影響を表す単位”である。
PR

FLYING POSTMAN PRESSは全国7都市で配布しています。

FLYING TO YOU