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フライング・ポストマン・プレス 名古屋版

2018/04/11

5月19日(土)公開!映画『モリのいる場所』沖田修一監督インタビュー

昭和49年。結婚52年目の画家熊谷守一とその妻の、ある夏の1日に日本中が笑いと涙に包まれる映画『モリのいる場所』。名優・山﨑努と樹木希林が円熟の老夫婦を演じ、さらに2人を取り巻く個性豊かなキャストも見逃せない本作において、沖田修一監督に作品に対する思い、撮影のエピソードなどを聞いた。

 

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—熊谷守一さんの1日を映画化しようと思った経緯を教えてください。

主演の山﨑努さんと『キツツキと雨』でご一緒した時に、撮影場所が熊谷守一さんの記念館に近かったので、山﨑さんが「(熊谷守一さんの記念館に)行ってみたら?」と勧めてくださいました。その時すぐには行けませんでしたが、後日山﨑さんの言葉を思い出して、熊谷さんのことをホームページなどで調べてみました。そして、守一さんの絵や、晩年の守一さんに迫った藤森武さんの『独楽』という写真集に出会って、熊谷守一さんのことを知るようになりました。この時はまさか映画化するなんて思っていませんでしたね。それから、「また山﨑さんと映画を撮りたい」とずっと考えていて、山﨑さんが熊谷守一さんを演じたら面白いんじゃないかと思って、自分から台本を書き始めました。

 

—実在していた人物を描く上で心がけたことはありますか。

僕は、藤森さんの写真集を通じて、晩年の守一さんが外へ出ずにアトリエと庭で生活したことに対して「なぜその生き方を選んだのか」ということに非常に興味がありました。だから、彼の自伝や美術に特筆するのではなく、彼の1日を表現することにしました。彼の1日の流れに想像を膨らませつつ、文献を調べて実際の彼の面白エピソードなども台本の中に組み込んでいきました。

 

—熊谷守一さん役の山﨑努さんとその妻・樹木希林さんは初共演だということでしたが、お2人を演出されていかがでしたか。

 

山﨑さんと樹木さんが並ぶだけでもう他に何もいらない。そう言えるくらい、お2人は台本の面白さをそのまま表現してくださいました。藤森さん曰く「熊谷さん夫妻は常に口喧嘩をしていた」そうなので、いくつになっても分かり合えるようで分かり合えない夫婦の面白さも表現できたんじゃないかなと思っています。

 

—山﨑さんは具体的にどのように撮影に臨まれていたのでしょうか。

山﨑さんは、守一さんの1日の流れを1本の映画にすることを非常に面白がってくれました。だからこそ、現場でも台本の設定や流れを大事にしながら演じてくださいました。やはり山﨑さんは、小さい頃から見ていた役者さんですし、常に憧れがありますね。自分の映画に出演してくださっているなんて本当にありがたいことです。山﨑さんのユーモアセンスで「どうしたらここがもっと笑えるか?」と考えてくださる。台本の面白さを忠実に再現しようと、台本を読み込んでくださることも非常に嬉しいです。山﨑さんご自身も「守一さんの優しさを渋い顔で表現したら面白いだろうね」と言ってくださったように、このギャップが最高なんです。

 

—山﨑さん演じる熊谷さんがカレーうどんを食べるシーンが印象的でした(笑)。食べようとするんだけど、麺が滑って食べられないという。

あのシーン、ずっと観ていられますよね。実は、以前僕が入ったあるうどん屋さんで、僕以外お客さん全員外国の方ということがあったんです。その時に、外国の方々が箸をうまく使えなくて、なかなかうどんが食べられないという状況に遭遇しました。そのうち1人は最終的に箸を置いて諦めてて(笑)。だから、今回、熊谷さんも箸が滑ってしまってうどんがうまく食べられなかったら面白いかな?と思って、そのシーンを入れてみました。

 

—樹木さんはいかがでしたか。

樹木さんも、多様なアイデアで映画をより良く魅せてくださいました。最後の方で「うちの子たちは早く死んじゃって」と呟くシーンなんかは、樹木さんのアイデアをそのまま採用させていただきました。5人のお子さんのうち、3人を亡くされていることについて、当初は触れないつもりだったのですが、樹木さんのおかげでそのシーンがさらに深くなり、映像を見てゾクッとしました。その他にも、守一さんの出したゴミをたくさん集めて「これでよく燃えるわ。」と言うシーンでは、集めたゴミをさらに燃えやすく見せるために丸めた新聞紙を入れていました。そうした樹木さんのアイデアがいつくもの場面に生かされています。

 

—映画では、知らない人までが熊谷さんのお家に上がってくるなど、たくさんの人がせわしなく出入りしますが、対照的にゆったりと変わらない熊谷さんの姿がとても印象的でした。

熊谷さんの1日って“庭の冒険”に尽きるんですけど、その様子を周りの人々が勝手に「仙人」と呼んだり、勝手に尊敬したりして周りが変わっていく。藤森さんによると、熊谷さんの家にはよくいろんな人が出入りしていたそうなので、映画の中でも主人公の”モリ”という生き物がみんなの真ん中にいるように描きました。

 

—熊谷さんの日常へのまなざしを撮ることで、監督自身も日常へのまなざしに何か変化はありましたか。

今回の作品は、山﨑努さんが熊谷守一さんを演じる映画であって、何か刺激的な事件が起きたりするわけではないからこそ、山﨑さん演じる熊谷さんの表情の変化1つ1つを楽しめる貴重な作品になっているんじゃないかと思うようになりましたね。あと、携帯がなくても普通に生活していた時代があったんだと感慨深く思いました(笑)。今じゃ考えられないですよね。グローバルで情報化が進んだ時代の中で、その反対のような熊谷さんの1日を撮っていくうちに、なんかすごく意味があることなんじゃないか、と思えてきました(笑)。さらに、生き物を見る目が変わりましたね。熊谷さんの生活は庭の中で完結してしまう。でも彼の中では、その庭は、私たちが会社や学校に行って買い物をしたりする空間と同じような広さを意味していたと思うんです。だからこそ、庭を大きく見せたくて、生き物を長い時間かけて撮影していたら、「このつる、少し伸びた?」と生き物の小さな変化にも気づくようになりました。

 

—スクリーンに飛び込んでくる庭の生き物へのこだわりを教えてください。

どこから話したらいいんだろう? それくらいこだわりだらけになっていますね。やっぱり僕は“山﨑努と虫”の共演をどうしても撮りたかったので、カメラマンは撮影に入る1ヶ月前から、僕は2週間前から、庭の隣で実際に虫と一緒に過ごしました。毎日、自然と生き物が集まってくれていたので、実験的に様々な生き物を撮影していました。作品の舞台になった古民家の庭には本当にたくさんの生き物たちがいましたが、蟻の行列をつくるために餌付けしたり、1匹の蝶の動きを撮影するためにたくさんの蝶を一度に放したりと、他の場所にいた生き物たちも連れてきて撮影しました。でも、やっぱり“いい演技”をするのは、もともとこの庭に住んでいた生き物たちなんですよね。自分が好き好んでいる場所なので、動きがとてもいいんです。やはりこの作品は「生きる」がテーマだったので、名演技をしてくれた生き物たちに感謝ですね。

 

 

【STORY】

昭和49年の東京。

30年間自宅のちっちゃな庭を探検し、クワバナや生きものたちを飽きもせずに観察し、

時に絵に描く画家モリ(94歳)と、その妻秀子(76歳)。

52年の結婚生活同様、味わいを増した生活道具に囲まれて暮らすふたりの日課は、ルール無視の囲碁。

暮らし上手な夫婦の毎日は、呼んでもいないのになぜか人がひっきりなしにやってきて大忙し。

そんな二人の生活にマンション建設の危機が忍び寄る。

陽がささなくなれば生き物たちは行き場を失う。

慈しんできた大切な庭を守るため、モリと秀子が選択したこととはー。

 

【映画情報】

山﨑 努 樹木希林

加瀬 亮 吉村界人 光石 研 吹越 満 池谷のぶえ きたろう 林 与一 三上博史

脚本/監督:沖田修一

制作プロダクション:日活 だぶ 配給・製作幹事:日活 製作:日活 バンダイビジュアル イオンエンターテイメント ベンチャーバンク 朝日新聞社 ダブ

助成:文化庁文化芸術振興費補助金 2018年/日本/99分/ビスタサイズ/5.1ch/カラー

 

5月19日(土)ミッドランド スクエアシネマ、イオンシネマ他全国ロードショー


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