エンターテインメントフリーペーパー フライング・ポストマン・プレス

フライング・ポストマン・プレス 関西版

2018/05/31

【インタビュー:前野健太】約4年半ぶりのオリジナル・アルバム『サクラ』で新たに開花したマエケンの歌の魅力に迫る!

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――新作『サクラ』では多彩な楽曲が並び、前野さんのボーカルもすごく味わい深いです。

 

「3年前ぐらいから、初めて声楽の先生について教えていただくようになったんです。目から鱗で、今まで使ってなかったいろんな部分を使えるようになってガラッと変わりましたね。ギターって真ん中が空洞じゃないですか。人間の体もそういうもんなんだなと。今まですごい薄い板だったけど、ぐっと厚みが出て、低音から高音の奥行きが出ましたね」

 

――ボーカルトレーニングをしようと思ったのは、何かきっかけがあって?

 

「60〜70年代の歌謡曲をいっぱい聴いたんです。それで変わりました。もっとチャレンジしてみたいなと。今までボイトレとかをバカにしてましたね。(いい歌を歌う人は)圧倒的に技術が違うなと。中でもちあきなおみさんが一番かな。いろんなジャンルを歌えるし、情感もすごいけど、技術もすごいですね。荒木一郎さんは歌の乗せ方、リズムの乗せ方がすごくおもしろくて。特に70年代に残した音源は素晴らしい。(今作の中の)『防波堤』は荒木さんのフィーリングから影響を受けています。リズムの乗せ方とか、低音の出し方とか。初めて自分の声が良いと思いましたね。それまで、高くて細い自分の声質というのが好きじゃなかったんですけど、ドシっとして、奥行きが出たなと」

 

――音楽活動以外で、映画や舞台に出演されてきたことも関係しているのかなと。

 

「演劇の経験がたぶん大きいでしょうね。初舞台となった『なむはむだはむ』は森山未來さんから誘ってもらって。“マエケンはステージにいるだけでおもしろいから、大丈夫”っていう、よくわかんない誘われ方だったんだけど(笑)。全部自分でやろうとせずに、人に委ねていいんだなと。舞台は、僕がただ転がされるという立場でも成り立つ作品だったんで。音楽の方でも、曲をアレンジャーに投げて、自分は歌だけ歌うというやり方が今回できたんです」

 

――グッとくるポイントはいろいろありましたが、『ロマンティックにいかせて』の最後の部分とか、いいですね!

 

「“お前の歌が大好きだよ”っていうやつですよね? あれ、ホント迷ったんですけどね…。やめようか、どうしようか。でも、あえて入れようかなと思って、入れたんです」

 

――男臭い、大人のセクシーさが滲み出ていて…。

 

「ああ、そうですね。なんでしょうね…、流行んないんじゃないですかね?(笑)。だから、女性も男性も、男というものに、そういうのを求めてない、今はちょっと可愛い男子を求めてるんじゃないですかね?」 

 

――そういうイマドキの可愛い男子とか、爽やかイケメンには出せない色気が前野さんの歌から感じられて、ゾクっときたんです! それはどこから来てるのかなって…。

「僕は、人生の後ろめたさみたいなものを持ってる歌の方に色気を感じるので、どうしてもそういうものを聴いちゃいます。その後ろめたさが歌だと思ってるんで。人間の影の部分とか、背中で引きずってるものとか、そういうところにしか魅力を感じないので、そういう歌が増えていくんだと思うんですけどね。俺には前向きな歌が歌えないんです。いや、“前向きケンタ”なんですけど。(一同笑)やっぱり、歌の情景としては、ちょっと暗い景色とかシーンが多いですね」

 

――でも、影の部分を歌いながらも、光を感じさせるフレーズもありますね。

 

「うん、そうですね。『大通りのブルース』は、大通りはうるさくて嫌だみたいなところから始まって、だけど、いずれこの車というものも、何百年かしたら別のものに進化していて、世の中からなくなるんだろうなって思った時に、目の前の車をすごく愛しく感じるというか。僕が嫌だなと思う感情を良いものにしないと生きていけないから。そのために歌を作る作業が、もしかしたらあるのかもしれない。現実を良いものだと思いたいために歌を作ってたのかなって。“自浄ソングライター”っていうかね(笑)」

 

 

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――歌うことより、“歌を書く”というのが、前野さんにとって何より大切なことなんですか?

 

「僕、歌うよりも歌を作るのが好きなんです。こうやって前に出るのも、全然好きじゃないんですよ。(ジャケットと歌詞カードの写真を指して)何コレ? こんな晒しちゃって…。僕はイラストとかでいいのに。いつの間にか、こうなってますね。みなさんが、過度に期待するんですよね。僕は細々と歌を作っている人間なんですけど。こうやって、盛り上げてくれるんですよね」

 

――“人間臭”だだ漏れな存在感がありますもんね。90年代以降、前野さんのような人間臭い大人の歌を歌うアーティストが少なくなってきてて。

 

「そうなんですよね。そこはやっていきたいですね。ふっとした夜に、身を傾けられるような歌っていうのが僕は好きなので。そういう歌を作れたらいいなと思いますけどね。なかなか課題は山積みですけど、今回、歌というものに、ちゃんとぶつかったアルバムという気がします。その第一歩となるものをみんなと作れたかなと。これは、もう絶対にひとりでは作れないようなアルバムなので。いろんな実験ができましたね」

 

――ピアノやホーンがムーディーに奏でられ、昭和歌謡やジャジーなテイストが感じられる曲もありますが、音楽的にも今までなかったタイプの楽曲が増えていますね?

 

「ああ、全部そうです。いろんな音楽が好きですからね。普段からジャンルに関係なく、歌があるものは何でもおもしろいなと思って聴いてるんで。自分の音楽もあんまりジャンルで分けたくないんですよね」

 

――歌が核にあって、いろんなアレンジを楽しみながら歌っていると?

 

「そうですね。アレンジャーのみなさんにはそこだけは伝えていたと思います。歌が真ん中にあって、あとは自由にやってくださいと」

 

――シンガーソングライターとして、歌手として、これからさらに脂が乗ってきそうですね。

 

「昔は年を重ねていくことに焦りがありましたけど、もう全然ないですね。どんどんおもしろくなる。今ちょうど39なんですけど、楽しみですよ。歌はずっと歌えるので。声が変わっていくことだって何にも恐れずに、その声で歌えばいいんですよ。それが歌の醍醐味なので。小沢昭一さんの晩年の歌を聴いて改めて思ったのは、“歌”っていうジャンルは年を重ねれば重ねるほど、絶対におもしろいです。そういうのを今の音楽業界はちょっとないがしろにしすぎてて。40、50歳の新人が出てきていいと思うんですよ。歌というのは人生経験がモノを言うジャンルですから。どんどん変態していけばいいんですよ。虫みたいに殻を破って。だから僕は、映画『変態だ』っていうのを経て、第二形態に入って、今回『サクラ』を出して…。次は多分、『サクラⅡ』になると思います。ずっと使える(笑)」

 

――今後の展開も気になります。

 

「まだ言えませんが、(音楽活動以外で)ちょっと大掛かりなものが待ってたりするんで。そういうところで、いろんな影響を受けながら、また新しい歌を作るのが楽しみっていう感じで…」

 

――これから各方面で、前野健太という存在のおもしろさを新たに発見していく人がもっともっと増えていきそうです。

 

「そうだとうれしいですね。ぜひよろしくお願いします!」

 

Interview & Writing  by エイミー野中

 

 

前野健太 (まえのけんた)

’79年生まれ、埼玉県入間市出身のシンガーソングライター。’07年に自ら立ち上げたレーベル“romance records”より『ロマンスカー』をリリースして、デビューする。その後、映画や舞台にも出演。近作では、’16年に主演映画『変態だ』が公開され、’17年には初舞台となる『なむはむだはむ』が上演。同年、初のエッセイ集『百年後』が刊行された。’18年4月25日に4年半ぶりのオリジナル・アルバム『サクラ』をリリース。『アルバム発売記念ツアー〜開花宣言〜』“バンド編”が5月20日からスタートし、6月7日から“ソロ編”が開催される。

オフィシャルHP:https://maenokenta.com/

 

 

new album

『サクラ』

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 ¥2,500(税抜)

PECF-1150

※now on sale

 

<前野健太 ニューアルバム「サクラ」発売記念ツアー~開花宣言~バンド篇>

6/2(土) 大阪梅田Shangri-La

ゲストアクト:シャムキャッツ

 

 

 


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