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2019/03/29

【インタビュー】絶賛公開中! 映画『美人が婚活してみたら』大九明子監督が語る、現場で起きた素敵なこと

「俳優の素に近い部分を見せていただきたい、と思っています」

 

 「美人が婚活してみたら」メイン

 

 

 

漫画アプリ「Vコミ」で連載された人気漫画『美人が婚活してみたら』が、『勝手にふるえてろ』が高く評価された大九明子監督の手により映画化。女同士の親密で、かつ毒っ気のある関係性を主軸にしながら、32歳の“人生迷子中”の女性の奮闘ぶりを映した本作。クスクス笑っているうちに胸を突かれ、でも最後には爽快感を味わえるような…そんな充実の人間ドラマに仕上がっている。脚本を担当した芸人のシソンヌ・じろうとのやり取りについて、現場で起こったいくつもの素敵なことについて。大九監督が本作の製作を振り返る。

 

 


 

 

――本作は脚本のじろうさんとのタッグを前提とした企画だったとか。脚本制作の段階で、じろうさんにはどんなリクエストをされたのでしょうか。

 

「まずは、女同士の人間関係の中で紡いでいく映画にしたいと伝えました。と言うのも、この映画のお話をいただいて原作を読んだ時に、原作者のとあるアラ子先生と、その親友で主人公となるタカコとのやり取りが面白いと思ったんです。ちょっと意地悪な視点と言いますか…美人をイジっているようなところが面白いなと。あと、アラ子先生のプライベートな部分、例えばちらっと出てくるお母さんとのやり取りなどにもアラ子さんの本音の部分が出ているように感じたんです。そういう、原作を読んで私が面白いなと思ったところをじろうさんにお伝えして、それを踏まえて脚本を書いてもらう形になりました」

 

――結果、上がってきた初稿はイメージ通りでしたか?

 

「いや、最初は思っていた感じではなかったです。私自身は覚えていないんですけど、じろうさんが言うには、最初の脚本を読んだ私は“これ、全然違います”と言ったらしくて(笑)。原作のエピソードを何個か拾って繋げていけばシナリオになるんだろう“っていう感じで書かれたもののように感じたと言いますか…。去年の1月の頭に打ち合わせをしたんですけど、そこにじろうさん土下座をして入ってきて“書けません!”と。もう2月には撮影が始まるっていうのに、どうしたものかと(笑)」

 

――じろうさんの難航された理由というのは?

 

「これはお笑いのプロの方のプライドだと思いますが、じろうさん、終始面白くしないとと思っていたみたいなんです。それで、原作の面白い部分だけをポンポンポンと繋いでいったみたいなシナリオをご提示なさった。私は“コントと違って終始面白くする必要はないですよ”と言いました。それで何稿かまたじろうさんに重ねてもらったんですけど、じろうさんって優しい方なので、ここはどうしても難しいかなと思うシーンがいくつかありまして。例えば、女同士の激しいケンカのシーンとか、女の人がお母さんに向けて発するキツイ言葉とかは、じろうさんとしては“そこまでキツく言わなくても伝わるんじゃないかな”と思っていたんだと思います。何度かじろうさんとやり取りしていく中で、そういう部分は私にお任せしていただけることになりました。じろうさん、“いくらでも切ったり、書き換えちゃったりしてください”と言ってくださった。あと笑いの部分も、尊敬する芸人であるじろうさんに対して恐れ多いことですが、スクリーンに馴染む笑いという形を提案させてもらいました。それで私も清々しく気持ち良く、いい意味でシナリオには固執せずやらせていただきました」

 

――その“映画の笑い”にするべく手を加えられたところと言うと?

 

「例えば、オープンニングのシーンとか。主人公のタカコ(黒川芽以)が公園でハトにエサをやっていると、子どもが駆け寄ってきてハトが一斉に飛び立ち、タカコが思わず“死にたい”って呟いてしまうところ。原作の中では、タカコは電車の中で“死にたい”って思う設定だったんですけど、今回の映画では予算の都合もあって乗り物を出すことはできないというのが最初からありまして。それでじろうさんに、乗り物を使わずにタカコに“死にたい”って思わせる何かを考えてくださいってお願いしたんです。それでじろうさんがいろんな“日々の嫌になっちゃう場面”を書いてくださったんですけど、それがすごく面白いんですけど、コントの面白さだったんですね。じろうさんも“僕がやると何稿重ねてもこういうことになるから”とおっしゃっていたので、じゃあ、そこは私がやらせてもらいますと。いざ自分で考えてみたらふと、浪人時代のことを思い出したんです。浪人中、毎日図書館で勉強していたんですけど、お昼は大体、その図書館の近くの公園でおにぎりを食べたりしていたんですね。その公園にはハトがたくさんいまして。それで毎日餌付けじゃないですけど(笑)、お菓子を持ってきたりしてハトにあげていたんですよ。それが毎日のささやかな楽しみになっていった。で、ある日、夢中でエサをやっていたら、子どもが駆け寄ってきまして。“タタタタッ、ダン!”って。そうしたらハトが一斉に飛び上がっていったんですよ。タカコは冒頭で“死にたい”って言いましたけど、私はその時“このクソガキ、殺す”って思わず口走りそうになりました(笑)」

 

――お気持ちはわかります(笑)。

 

「浪人中のささやかな楽しみだっただけに、それが壊れてしまった瞬間の絶望と言ったらなかったです。あのものすごい絶望感を今回ふと思い出して、“よし、オープニングに取り入れてみよう”と。あの時の子どものおかげですね(笑)」

 

――子どもが関わる印象的なシーンがもう一つあります。主人公のタカコが歯科医院でシリアスな話をしていると、他の診療台にいる子どもが何事かと様子を覗くという。大九監督の作品を観ると、フォーカスの当たるシビアな場所の外の世界にある可笑しみを大事にされているように感じます。

 

「それはうれしいです。ありがとうございます。そうですね、それは私がいつも思っていることであって。いつも、ちょっとだけ笑っていたいんです。ロケハンの時に、助監督にいろんな診療台に乗ってみてもらったんです。その様子を見ながら、“このシーン、すごく向こう側が見たいと思っているのになかなか見られない子どもがいたら面白いな”と思いつきまして。子どもの時の歯医者って、基本的に嫌な思い出ばかりじゃないですか。痛いとか、怖いとか、長いとか。そういうことを感じている子どもが、ふと大人のマズい話を聞いちゃうっていうのは面白そうだなと。それで子どもをひとり、エキストラで入れてもらうことにしました」

 

――本編中盤で、公園でおばさんふたりが手編みの毛糸の帽子の話をするところが長めに映りますよね。あの場面は脚本にあったものですか?

 

「あれも脚本にはなかったです。テストの時に、あのエキストラのおばさまたちが“今日も寒いわねぇ”って言うのを見て、その芝居をつけた演出部のスタッフに“寒いんだったら帰るんじゃない?”と言ったんですよ。そうしたら演出部のスタッフが“えっ?”って固まりまして。それでそのスタッフとおばさまたちが話す内容を改めて詰めている時に、ふとそのおばさまたちを見たら、その日初めて会ったおふたりが編み物の話で盛り上がっていらした。それを見て“これだ!”と思いまして。で、その会話の続きを本番でしてもらうことにしました。好きなように喋ってもらい、止めずにワンカットで撮ろうと。だからね、みんな素敵なんですよ。誰もが面白いってことです。面白い話を持っていない人はいないと私は思っています」

 

 

「美人が婚活してみたら」サブ2

 

 

――主人公のタカコと親友のケイコ(臼田あさ美)のシーンでも、現場で起きたことを本番で取り入れ、その結果思っていた以上のものになった、ということはありましたか?

 

「ふたりのケンカのシーンが全体的にそうだったと思います。あのシーンはタカコのシーンというより、ケイコのシーンだと思っていて。そのケイコ役の臼田さんは実は妊娠中だったんです。そんな妊娠中の臼田さんを激昂させていいのかな…と思いつつも、あそこは激しくケンカをしてもらいたかったので、いろいろと周りからアピールしてみたんです。カメラマンに“ここはケイコのワンショットから入っていって…”というようなことを話し、近くで聞いている臼田さんに“今からあなたを撮ります”という感じをアピールしていった。そういうことを重ねていく中で、あのシーンの空気ができあがっていきました。あのシーンの最後のタカコの“絶対結婚してやる!”って強く吐き捨てるところも、現場で作ったものです。最初はもっと軽い感じの台詞でした。でも、現場で俳優やプロデューサーとやり取りする中で、シーン全体の芝居が激しいものとしてできあがっていったんです。その結果、そのタカコの台詞の前のケイコの“あんたは絶対結婚できない”っていう言葉も激しい感じに仕上がっていった。だからこそ最後の台詞が違うねとなり、現場で手を加えました。そういう現場のアンサンブルとでも言うんでしょうか…そういうものによって思っていた以上のものができあがっていったシーンです。もちろんそれはここだけの話じゃなく、映画全体がそういうことは起こっていたと思います」

 

――改めてですが、主人公のタカコ役の黒川さんの新たな魅力を感じさせてもらいました。監督は黒川さんの女優としての魅力をどう感じていらっしゃいますか?

 

「放っておいても色っぽい方ですけど、喋り出すとちょっとおきゃんな感じがあって可愛らしいんですよ。愛嬌があるというか。だから男性だけのものにしておくのはもったいないと。ぜひそのおきゃんなところを、この映画で一緒に出していけたらなと思いながらやっていました」

 

――黒川さんに限らず、キャストのみなさんが魅力的に映っているとも感じます。俳優と向き合う時にはどんなことを心がけていらっしゃるのでしょうか。

 

「その人の見たことのない部分を見たい、という思いがあるんです。それも、作り込んでいるところというよりは、素に近い部分を見せていただきたい、と思っていて。だから私、俳優が混乱したり、迷ったりしているうちに撮るのが好きなんです。なんか騙し討ちみたいで申し訳ないんですけど(笑)。すべての言動をわかった上でやるというよりは、“ええっと…”とちょっと迷いながらやっているほうが人間らしいって私は思うので。俳優たちの、人間っぽいところを撮っていくというのは大事にしていることだと思います」

 

 

 

 

大九明子(おおく あきこ)

 

大九明子監督

 

’68年生まれ、神奈川県出身。プロダクション人力舎スクールJCAの第1期生となり芸人を志した後に、製作側へ転身。’99年に映画『意外と死なない』で監督デビューを果たす。主な監督作に『恋するマドリ』(’07)、『でーれーガールズ』(’15)、『勝手にふるえてろ』(’17)などがある。

 

 

 

『美人が婚活してみたら』

http://bijikon.official-movie.com/

 

’18年/日/90分 PG-12

監督:大九明子
原作:とあるアラ子「美人が婚活してみたら」(連載:まんがアプリVコミ、刊行:小学館クリエイティブ)
脚本:じろう(シソンヌ)
出演:黒川芽以、臼田あさ美、中村倫也、田中 圭、他

※全国公開中

©2018吉本興業

 

 

「美人が婚活してみたら」サブ1

 

【STORY】

32歳のタカコ(黒川芽以)は道行く誰もが振り返る美女。仕事に恵まれ、愚痴を聞いてくれるケイコ(臼田あさ美)という親友もいる。しかし、付き合っている相手が既婚者だったと後から発覚するという恋愛が3回も続き、不毛な恋愛に疲れ果てたタカコの口から「あぁ、死にたい」という言葉がこぼれ出たその日の夜、タカコは結婚を決意し、婚活サイトに登録し…。


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