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フライング・ポストマン・プレス

2017/03/04

【インタビュー】ボーダーレスな映画人・杉野希妃が今の世に届ける新しい“雪女”とは

「自分とは違う存在と交わることの大切さを描きました。
今、この世界に届けたい物語です」

 

 

杉野希妃2

 

 

女優、映画監督、プロデューサーと、ジャンルレス&ボーダーレスに映画を届ける杉野希妃。3作目の監督作で描く題材は“雪女”。小泉八雲が『怪談』の一篇として著した『雪女』をもとに、自身の解釈を加え、新しい雪女の姿を映し出している。着想や映画のテーマについて、自ら演じた“雪女”という存在について、撮影現場でのキャストとのやり取りについて、本作の制作過程を振り返る。

 


 

 

――昔話「雪女」、それも小泉八雲が著した短編小説『雪女』を、なぜ今映画の題材に選ばれたのでしょうか?


「’13年の4月に、『おだやかな日常』という映画でトライベッカ映画祭に参加した時、現地でお会いしたプロデューサーが、ちょうど小泉八雲のエッセイフィルムを撮る準備をされていたんです。“小泉八雲って素晴らしいんだよ、キキさん、雪女やったらいいじゃない?”と軽いノリで言われたことがきっかけでした。もちろん雪女という昔話は知っていましたが、小泉八雲の短編小説はきちんと読み込んだことがなかったなとふとその時思いまして。ギリシャ出身で日本にやって来て、小泉八雲と名前を変えて日本人になった人がどんなふうに世界を見て、どんなことを考えていたのか。それを知りたくて改めて読んでみたんです。小泉八雲の『雪女』という物語には、現代人が忘れている目に見えないものに対する畏怖や憧れ、自分とは違う存在と交わっていくことの大切さが描かれていると感じました。今世界では、どんどん過激な思想が広がっていっていますよね。自分とは違う存在を受け入れるということが、なかなか難しくなっているところもある。そんな今、この世界にこの物語を届けるのは、とても意味のあることだと思ったんです。これまでも雪女は小林正樹監督や田中徳三監督が映画で描いてこられましたが、私なりに解釈して映画にしたら、新しい『雪女』を提示できるのではないかと考えました」


――今回は脚本も担当されていますが、大切にしたのはどんなところですか?


「実は最初は私が脚本に入っていなくて、他の脚本家の方に書いていただいていたんです。その方に書いていただいた脚本は、どちらかと言うと民俗学的要素の強いものでした。例えば、夜這いの話や神道の話といった、日本の村社会というものを描いている印象が強かったんです。話し合いながら脚本開発をしたものの、ちょっと自分的にしっくりこなくて…。そうこうしているうちに私が交通事故に遭って重傷を負い、『雪女』の製作自体一年間延期しなければならないという事態に。その時私が思ったのは、“これは神様から与えられた休暇なんだ”ということでした。何か目に見えないものに背中を押されているような…“書け”と言われているような気がしました。それで、その時お願いしていた脚本家の方と話し合った上で、自分で一度書いてみることにしたんです」


――では、本作のストーリーのアウトラインは、そのリハビリ期間中に作られたと。


「はい。一度まずは自分で物語を書き上げ、その後でもうふたりの脚本家に加わってもらい、3人でディスカッションしながら仕上げていきました」


――最初の民俗学的要素の強い脚本から、どのように変化していったのでしょう。


「最終的に作り上げた物語は、私が演じた雪女と青木(崇高)さん演じる巳之吉、(山口)まゆちゃん演じる、ふたりの娘のウメ、それぞれの変化を描いていくものになりました。小泉八雲の短編小説には、登場人物たちの心情はほとんど描かれていません。私がこの物語を映画にするなら、やっぱり一人ひとりのディテールを描いていきたかった。例えば、雪女と夫婦になる己之吉の葛藤する姿や、次第に人間化していく雪女の姿、ふたりの娘のウメがいろんなことを感じながら生きていく姿…そういったものを大切に描いていきたいと思っていました」


――3人の姿はとても印象的です。とりわけ、人間と人間ならざる者の間に生まれたウメが、この映画のテーマを象徴しているように感じました。


「確かにそうですね。ウメの存在って、言葉ではなかなか定義できないものだと思います。ジャンル分けできない存在といいますか…。でも私自身は、実は彼女が一番“人間らしい”存在だと思っていて。人間ってそもそもそういうものなのではないでしょうか。国籍や人種といったものでは分類できないと思うんです。むしろいろんな血や文化が入り混じってこそ人間、そのミックス感が今すごく大事なのではないかと思っているんです。でも世界全体はそういう方向には進んでいない…そういうことに私はもどかしさを感じていて。だからウメは今の世界の担い手であり、希望の光であって欲しいと。そういう想いを込めた存在だったというのはあります」


――ウメ役の山口さんは素晴らしかったです。起用の理由を教えていただけますか?


「子どもっぽい可愛らしいところがありながら、一方では達観していそうと言いますか…急に大人びた表情を見せてくれたりするんです。そのアンバランスさがおもしろいと思いました。加えて、まだ何色にも染まっていない、吸い込まれてしまいそうなほどの透明感。彼女だと確信してウメ役をお願いしました」


――杉野さんの“少女”の捉え方が印象的です。少女という存在の危うさ、儚さ、美しさが見事に捉えられていて。被写体として少女を撮りたいという思いはあったのでしょうか?


「それはあります。常々思うのは、“今しかないもの”を残したいということ。そういう意味で少女はおもしろい存在ですよね。思春期を生きる人間の“悩んでいるけれど、尖っている感じ”というのがおもしろいなと。でもこれは少女に限ったことではなく、どんな世代の、どんな人にも見つけられるものだと思います。例えば今私は32歳ですが、32歳の女性だからこそ発せられる何かというのはあると思いますし。人それぞれ、その時々の輝きを映していきたいですね」


――巳之吉役の青木崇高さんは、初期段階から思い浮かべていた配役でしょうか?


「はい。映画化しようという時から“巳之吉を青木さんがやったらどうなるんだろう?”と思い浮かべていました。原作の巳之吉は朴訥として、どちらかと言うと受け身の人という印象があって。でも私が今回描きたかったのは、受け身な中にも土的なエネルギーがあり、人間的な豊かさも感じられる巳之吉でした。それで、人間的にも感情表現も豊かな俳優さんである青木さんに演じてもらいたいと」


――現場で青木さんとはどんなお話を?


「青木さんは、日本的なものや日常というものを大事にされていました。今回私は巳之吉を“自然寄りの人間”として描いていたんですが、そういう人間なら、もっとこういう日常があるだろうということ青木さんはいろいろ考えてくださって。例えば、日々神棚を前にお祈りをしているんだろうとか。もともと役者さんとして尊敬していましたが、改めて素晴らしい役者さんだと思いました。青木さんに巳之吉を演じてもらったことで、説得力を持たせられたと思います」

 

 

『雪女』メイン

 

 


――映像についても聞かせてください。どんなプランを立て撮影されたんですか?


「雪女と巳之吉、ウメの3人にフォーカスは置きつつ、同時に“神の視点”のようなものを意識し、俯瞰で撮ることも心がけていました。感情は描くけれども感情に寄り過ぎないように努めました。あとはいつの時代の話なのか、あえてわからないものにしたかったというのもあり、冒頭のシーンをモノクロにしたりしています」


――確かに、描かれる人々も時代もいい意味ではっきりとしたものがなく、渾然一体となっています。


「そうなんですよね、自分でも不思議な映画になったと思っていて。クラシックのいい部分を取り入れつつ、私なりに新しい感覚も入れたつもりです。21世紀版の雪女を提示できたのではないかと映画が完成した今、思っています」

 

 

【profile】
杉野希妃(すぎの きき)
http://kikisugino.com/japanese/
’84年生まれ、広島県出身。女優、映画監督、プロデューサーとしてあらゆる枠を超えて活躍。本作は『欲動』(’14)、『マンガ肉と僕』(’16)に続く3本目の監督映画。出演待機作に『海の底からモナムール』『ユキとの写真』(いずれも’17年公開予定)がある。

 

【最新監督映画】
『雪女』
http://snowwomanfilm.com/

『雪女』サブ1


’16年/日/96分
監督・脚本:杉野希妃
出演:杉野希妃、青木崇高、山口まゆ、佐野史郎、水野久美、宮崎美子、山本剛史、他
※3/4(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、横浜シネマ・ジャック&ベティ、4/1(土)よりシネ・リーブル梅田、大阪シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、神戸元町映画館他全国順次公開
(C)Snow Woman Film Partners

 


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