エンターテインメントフリーペーパー フライング・ポストマン・プレス

フライング・ポストマン・プレス 福岡版

2018/05/11

名匠・鶴橋康夫が『後妻業の女』の次に選んだのは40年越しの意欲作

名称未設定

 

ドラマ界で数々の賞を受賞し、2016年の『後妻業の女』の大ヒットによって銀幕の世界でもその手腕をいかんなく発揮した名匠・鶴橋康夫の最新作。監督自身が約40年、熱望し続けた作家・小松重男の時代小説を映画化した『のみとり侍』は、江戸時代に実在した猫の“蚤とり”稼業を中心に描かれる愛と笑いの人間喜劇。鶴橋監督が江戸を舞台に<床(とこ)>で活躍する侍を通じ、現代にも通じる義理や人情を“鶴橋節”満載で描き出す。主演の阿部寛をはじめ新旧鶴橋組オールキャストが、監督のために“一肌脱いで”結集し、現代では映像化困難と言われた原作の映像化に挑んだ。その意欲作について鶴橋監督の想いに触れた。

 

……一見、不条理劇のようで最後は人間愛に着地している点が、二度楽しめる作品でしたが、なぜこの原作の映像化に取り組もうと?

「これは難物でした。もう一生撮れないと思っていました。深海から猛毒の触手を伸ばしたクラゲのように絡め取られて、何十年、引越しをしてもこの小松重男さんの本は付いてくるんです。この物語はおっしゃる通り、不条理劇ですが、好色ものなんだけどストイック。どうやら小松重男という原作者は見果てぬ夢を江戸の時代に求め、武士とは何かという観点から人間の心に棲んでいる闇を少しずつ掘り起こす短編集を作っていたんだと思うんです。その中で猫の蚤を取る“密売夫”にさせられた侍の話にカタルシスはないんだけど、なぜか印象に残っていて。“侍”と付く脚本や映画は、男に見栄を張らせるタイトルのようで好きなんですが、短編集の「蚤とり侍」を最初に読んだ時は、小松重男って人は変な人だなぁと思いました。それから2年に一度くらいは映像化について、ふとした時間にアイデアを思い付いたりして、スタッフに「次、何を撮りますか」と聞かれると『のみとり侍』と答え続けて約40年が経ちました。それで『後妻業の女』が上手く成立して、今作のプロデューサーの市川南さんに「次は?」と尋ねられて、ようやく撮れることになりました。結局、自分でもこれはやれないと思っていた、作家の持っているイノセント、聖(ひじり)に追い付きながら、なおかつ滑稽な性的な描写も交わらせる。原作通りではあるんだけど、映像化することの意味も必要なので、そこを工夫することで前半と後半では別ものと言われるほどの作品に仕上がりました」

 

……具体的にはどのような工夫を?

「桂文枝さんが演じた田沼意次(たぬま おきつぐ)は、原作では数行しか出てきませんが、彼の時代は現代のアベノミクスに相対するタヌマノミクスのようで景気が良ければ上手くいく。つまり戦乱の世でなければ重たい刀を差す必要もないし、江戸時代の中期はそれほど安定していたんです。だから武士は戦うことがないから奢侈に流れますし、藩は入ってくるお金もないんで借金ばかり。そうなると御家騒動が度々起こる時代だったんです。それが今の政治にも似ているし、そこの中間管理職を阿部さん(阿部寛)にやってもらおうと。でもこの脚本を他の脚本家に依頼すると、プロデューサーにここを直してほしいと言われた時にいちいちお願いするのも大変だし、僕だったら簡単に書き換えられる訳で。その結果、29稿くらい書き直させられて (笑)。でも、それがなぜだか苦痛ではなかったんですよ」

 

……その熱のこもった脚本を元に映画化したこの作品の魅力はどのあたりでしょうか?

「ひとりでは人間生きていけない。藩士であれ、侍であれ、町人であれ、誰もひとりでは生きていけない。その幸せになる瞬間に喜劇をまぶして観る人に大笑いしてもらいながら、そんな気持ちになって胸がいっぱいになっていただければ僕にとっては嬉しいことですね」

 

……主人公ののみとり侍・小林寛之進(こばやし ひろのしん)を阿部寛さんに演じてもらおうと思われたのはなぜでしょうか?

「彼は一応、大学の後半で可愛くてしょうがないんです。蹴飛ばしてやりたいくらい可愛くて(笑)。10年前、「天国と地獄」で一緒に仕事もしたけど、いざ本格的にやってもらうとなるとお互い照れくささもありましたが、彼が出演を受けてくれて。そのことだけでこの作品は成立すると思いましたね。彼のお芝居は実に良かった。思った以上に含羞の人であり、愛の人でもある。しかもいまどき珍しく礼儀正しい。越後長岡藩主の忠清(ただきよ)のプライドを傷付けてしまい、“のみとり業”に左遷されることの悲哀と喜劇、そこから育まれる友情や愛情、仲間との絆の物語が見事にハマりました」

 

……阿部寛さんをはじめ豪華なベテラン俳優陣が脇を固める中、前田敦子さんの存在は際立っていたように思います。

「今や僕はアッちゃんの大ファンですけど、最初は(下ネタなので)やれるかなぁと心配していました。それが意外にも体がちゃんと動いて豊川悦司さんの股間に手を突っ込んだり、陰部にうどん粉をまぶしたり奮闘してくれました。ただ以前からうどん粉をまぶすシーンを映像化するのはドラマでも映画でもNGなので、どうしたものかと考えていた時に、「そうだ、ドジョウにうどん粉をまぶせばイメージしやすいかな」と思い付いて。でもドジョウじゃ小さ過ぎて、清兵衛に申し訳ないので鰻にしようと(笑)。アッちゃんは国民的なアイドルグループのセンターを務めていたくらいだから、スポットライトの当たり方が尋常じゃなかったんでしょうね、最初からすごくオーラがあったし、タイトなスケジュールを縫って来てくれた3日間は幸せな時間でした。でも撮影前に豊川さんとの絡みをどう説明しようか難儀しましたね(笑)」

 

……約40年越しの作品がいよいよ公開となりますが、今どんなお気持ちでいらっしゃいますか?

「罪悪感だけかな(笑)。つまり長年温めてきたことに力点が置かれることで、観に来た人がこれか?ってならないか気になりますね(笑)。ただ小松重男さんに最終的な許可を取ろうと思い、去年ご自宅を訪ねたら亡くなられていて。その瞬間はどこかで止めてもいいかなという思いも正直、芽生えました。それは時代物の小説家に対する僕の敬愛であり、これほどまでに絡め取られていた監督がひとりいたことを伝えたかったのですが、それができずとても辛くなって。でも小松さんが天国でこの作品を観ていてくれて、「君はバカか」と言われるかもしれませんが、もし「君は天才だ」と思ってもらえたら最高ですね。これだけわがままを通してもらったスタッフ、キャストの皆さんには罪悪感と感謝の気持ちしかないです」

 

 

 

publicity_image_0312

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

STORY

越後長岡藩藩士の小林寛之進(阿部寛)は藩主の気分を害してしまい、表向きは猫ののみとりを商売にしつつ、実態は床で女性の相手をする裏稼業「のみとり」を命じられる。長屋で暮らす人々の助けを借りながら新たな生活を始めて、間もなく出会ったおみね(寺島しのぶ)が、最初の「のみとり」の相手となる。亡き妻にそっくりな彼女にときめく寛之進だったが「下手くそ!」とののしられ、伊達男の清兵衛(豊川悦司)から女の喜ばせ方を学んで腕を磨いていくのだが…。

 

『のみとり侍』’18年/日/110分(R15+)

監督・脚本:鶴橋康夫  原作:小松重男「蚤とり侍」(光文社文庫刊)

出演:阿部寛、寺島しのぶ、豊川悦司、斎藤工、風間杜夫、大竹しのぶ、前田敦子、桂文枝、他

※5/18(金)より全国公開

http://nomitori.jp/

 

Ⓒ2018「のみとり侍」製作委員会


PR
2018.5.20号
monthly cover artist
デジタルブックを立ち読みする

フライング・ポストマン・プレス HOME

fppshop
FPP×AFRO FUKUOKA