エンターテインメントフリーペーパー フライング・ポストマン・プレス

フライング・ポストマン・プレス 福岡版

2017/05/17

『人生はビギナーズ』のマイク・ミルズ監督が6年ぶりの新作に込めた思いとは?

オフィシャル_MG_1415

 

6年ぶり待望の最新作『20センチュリー・ウーマン』を引っさげて監督のマイク・ミルズが来日し、インタビューに答えてくれた。前作『人生はビギナーズ』では自身の父親を題材にしていたが、本作では自らの母親をテーマに。シングルマザーのドロシアと、思春期に差し掛かった息子のジェイミーが、2人の女性と共に過ごすひと夏を描く。

 

……映画の舞台となった70年代後半は、どのような時代ですか?

「70年代後半は“今”の始まりではあります。しかし70年代後半は、それ以降のレーガン、80年代における富への欲望、エイズの悲劇、インターネットのインパクト、9-11、そして歯止めのきかない経済格差といった大きな変化が待ち構える世界とはまったく違います。だから、『20センチュリー・ウーマン』は、我々が決して戻ることのできない時代とイノセンスへのエレジーのように感じられます」

 

……この映画では、1979年を舞台に「母と息子」の物語が描かれていますね?

「ある意味で、これはグレーテスト・ジェネレーションがジェネレーションXに出会う物語です。僕の母は1920年代、僕は60年代後半に生まれました。あるレベルで見れば、この映画は母と息子のラブストーリーで、非常に奥深い唯一無二のラブストーリーですが、両者ともが切望しているようなつながりの強さをもたらすことはないかもしれません。この映画は、あなたが愛する人と真のつながりを感じる一瞬をとらえようとしています。こうした美しさ、理解、つながりの瞬間は、僕たちが教わったよりも脆くてはかないものですが、そうした瞬間が起きることは、つかの間といえども、たくさんあります」

 

……監督ご自身とお母様や家族との関係が、作品に影響を与えた部分はありますか?

「僕はとても強い女性に育てられました。この物語は、まさにその人物とリアルな場所から生まれたものです。僕に父はいましたが、子どもの頃は不在でした。僕は子ども時代のほとんどを母と2人の女きょうだいと過ごしました。それ以来、僕は常に女性の方に引き付けられてきました。そして、僕の周りにいた女性たちを理解しようとすることが、サバイバルの1つの形態だということを早くから認識していたと思います。僕はいつも彼女たちを観察して、彼女たちから学ぼうとしていました。たとえ彼女たちが理解不能だったとしてもです」

 

……脚本を書いている際に、苦労したキャラクターはいますか?

「女性の声を書くのは僕にとって非常に自然なことですが、ドロシアを書くのは容易ではありませんでした。特に、母は僕にとって深い謎な部分があったからで、この先もそうだと思います。それは、40歳で子供を持った55歳の母親の気持ちを理解するだけでなく、1920年代に生まれ、やがて70年代の激しい社会変化に直面するのがどんなことかを理解しようとすることでした。これには、リサーチとパーソナルな推測の両方を必要としました。ドロシアは真剣に飛行機のパイロットになりたいと思っていました。男性ばかりの会社で働き、古い映画が大好きで、特にハンフリー・ボガートが出演しているものなら何でも好きでした。僕はその時代の映画をたくさん見ましたし、男と女のしゃれた会話にも影響を受けました。その時代の映画の多くは破壊的に面白くて、それがドロシアをもっとよく理解するのに役立ちました。僕は、彼女がボガートと恋に落ちたかったのではなく、彼になりたかったんだと気付きました。ドロシアを書くとき、『ボガートならこの状況でどう振る舞うか?』と何度も唱えて脚本を書きました」

 

……ドロシアは、どのような人物ですか?

「ドロシアは55歳で、女性飛行家のアメリア・イアハートに似ています。彼女は毎朝新聞の株価を書き留め、他のタバコに比べて健康的という理由でセーラムを吸い、現代的だからとビルケンシュトックを履き、「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」を読んで木彫りのウサギを作り、長いこと男の人とデートしていません」

 

……ドロシア役に、アネット・ベニングを選んだ理由を教えてください。

「アネット・ベニングは、ドロシアのキャラクターにぴったりでした。ドロシアは、いつも何となくとらえどころがなくて、トリックスター的なところがあります。僕の母親がそうであったように、アネットは少し謎めいている。彼女自身がミステリーであり、彼女の演技はとても神秘的です。彼女は、シーンの構造を深く理解できる確かな演技力があります。しかし同時に、彼女はそこから飛び出して役になり切り、演じていることを忘れることさえできます。俳優が、彼らが準備してきたものを飛び越えてそれ以上に飛躍しようとするのが僕は好きです。アネットは、そうすることが大好きでした。僕たちは、撮影中の彼女の演技にしょっちゅう驚かされましたよ。僕たちは、僕の母親についてたくさん話をしましたが、アネットは彼女をそのまま再現するのではなく、彼女なりのディテールを重ねてオリジナルを作り出しました。スクリーン上のドロシアは、アネットの持つタイミング、直感、インテリジェンス、ユーモアによって構築されています」

 

……監督のお母様のブレスレットを、アネットが衣装として使用したと聞きましたが?

「その通りです。それはお守りのようなものでした。映画作りは、ちょっとしたスピリチュアルな魔法のようなものだと思っているので、そういったミューズになり得る物に助けを求めるのは良い考えだと思っています」

 

……アビーのキャラクターは、どのように生まれたのですか?

「僕の愛する人が子宮頸がんで似たような経験をしたので、脚本のリサーチをしながら彼女に長いインタビューをしました。キャラクターを理解するためにジャーナリスティックなアプローチを試みました」

 

……アビー役のキャスティングの経緯を教えてください。

「最初、この役を演じられる人がなかなか思いつきませんでした。でも、すぐにグレタが思い浮かびました。彼女はアートの世界に知識があり、彼女自身、サクラメントからニューヨークに旅をして実験演劇を追求していました。そして彼女は、アビーの悲しい隠された一面もよく理解していました。彼女はアビーをリアルに感じていたあまり、一緒にアビーの話をしていただけなのに、泣き出しほどです。彼女はアビーのように愉快で快活ですが、深い情緒的な部分も持ち合わせていました」

 

……ジュリー役を演じたエル・ファニングについて聞かせてください

「エルは頭の回転が速く、地に足の付いている、とてもしっかりとした子で、深い洞察力を持っていると感じさせられました。素晴らしい才能を持っています。彼女のアプローチはアネットのそれに似ていて、常にシーンの構造を意識していますが、それと同時にカメラなどまるで存在しないかのようにキャラクターを自らの内に宿すことができます。彼女の一瞬一瞬の演技は、どこかピュアで、彼女はジュリーのように聡明で、自分がまだ子どもであることをきちんと理解していました」

 

……ウィリアムについて教えてください

「ウィリアムは、60年代のカウンターカルチャーの物語を追いかける人生を送ってきた1人ですが、それは全人生を創造するには十分でなく、70年代後半には生きる目的を見失っていたような状態の人間です。それは、男たちが変化の渦中にある時代です。ボガートのような男は、1979年にはもはや存在せず、カーター大統領でさえも、これまでで最も内向的で傷つきやすい大統領でした」

 

……ウィリアムを演じたビリー・クラダップはどのような役者ですか。

「すべての俳優がウィリアムのようなポジションにいるわけではありません。どんな役にも挑戦するビリーの意欲はまれなものです。彼は、優しくて思いやりがありますが、少し道に迷っている口下手な男としてウィリアムを演じています。ビリーは、口ごもる話し方や沈黙を取り入れることで、皆が物事を投影する物静かな男という人物像を際立たせています。そして、彼は霧の中を歩いているようにゆっくりと動く。彼は受動的ですが、この家の皆にとって触媒のような存在でもあります」

 

……監督自身がモデルでもあるジェイミーのキャスティングについて教えてください。

「ルーカスは2000年生まれです。冗談みたいでしょう。ふたりで音楽の話をたくさんしました。彼は「The Cultural History of Punk Rock(パンクロックの文化史)」という偉大な本を読んでいました。優秀な生徒で、私がすすめたものは何でも真剣に学んでいました。それから、70年代に関するたくさんのドキュメンタリーを全員に渡しました。とにかくルーカスは熱心だったので、私もとても助かりました。まだ直接会う前から、音楽に合わせて踊ってもらうようにしていました。私が曲を選んで、シカゴの自宅で踊っているのをビデオに撮って送ってもらったのです。何も言うことはありませんでした。おかげで撮影もとてもうまくいきました」

 

……劇中にダンスシーンが度々登場し、印象的に描かれていますね?

「私にとってダンスはいつも非常に重要でした。音楽が大きな中心を占めているこの映画では、ダンスは私たちが音楽と交わる手段なのです。脚本にはいくつかダンスのシーンがありましたが、シーンに関わらず、リハーサルの日はいつもちょっとしたダンスパーティのような雰囲気で始めていました。ドロシアの音楽はオールドジャズ、ウィリアムの音楽はローリング・ストーンズ、アビーとジェイミーはパンクというように、皆でそれぞれの音楽を踊りました。皆が踊っている姿を眺めるのはとても素敵で、脚本に全員で一緒に踊るシーンを新たに入れることにしました。こうして、アビーがジェイミーに自由なパンクスタイルのダンスを教える最高のシーンが加わったのです。あれはまさにリハーサルから生まれたシーンです。また、皆が一緒に踊ってパートナーを変えてゆくシーンもとても気に入っています。そして、それは彼らがリハーサルでやっていたことなのです。私は全員の役者がパートナーを次々と変えてゆくのを見ていて、この映画のすべてがこの1シーンに集約されていると思ったのです」

 

……ドロシアとジュリーが車内で話すシーンがとてもよかったのですが?

「ジュリーとドロシアの車内のシーンについてですね。あれは、ふたりの対決のようなシーンです。ジュリーは自分の力をドロシアに見せつけしようとしています。あのシーンは撮影の終盤でした。現場で車の準備をしていると、

アネット・ベニングとエル・ファニングが二人とも、やや神経質になっているのが分かりました。今にもけんかを始めそうな雰囲気だったのです。私は、ふたりがこのシーンの撮影に本当に気持ちが入っているのだと思いました。彼女たちはこのシーンの重要性を知っていました。そして、ふたりの役者同士のぶつかり合いであることも分かっていました。エルがとても良い演技をするので、アネットは緊張していました。そしてもちろんアネットもエルを緊張させました。アネットには豊かな経験と深みがありますから。とても面白い撮影でした。それに、非常に撮影しやすくもありました。ふたりは、坂道にボールを転がすように容易く、演技して見せてくれたからです」

 

……素晴らしい脚本で、心に残る台詞がたくさんありました。気に入っている台詞はありますか?

「ドロシアの台詞ですね。私の母はあのような喋り方をしていたのです。彼女のおかしな金言をたくさん聞いていたので、そのいくつかは覚えていました。母がどのような感じで喋っていたかも、ある程度は思い出せました。けれども中には、思い出せない部分もありました。そこで母が見ていた映画の数々を見てみると、彼女がハンフリー・ボガートの大ファンだったことが分かってきました。私はボガートの出演作をすべて見て、気づいたのです。「母の話し方はハンフリー・ボガートみたいだな」と。反権威主義的で、破壊的なユーモアのセンス。そして、ウィットに跳んだ偉大な金言がね。私の母はハンフリー・ボガートから強い影響を受けていたんだなと思いました。だから私も同じことをしたのです。彼から教わったことは多いです。作品の中に出てくるのは、とりわけ私の好きな台詞です。母の台詞はとても面白いのです」

 

……撮影中に監督が涙していた聞きましたが、どのシーンの撮影の時だったのでしょうか?

「泣いたことは何度かありました。号泣ではなく、なんというか、ちょっと涙があふれてしまったような感じです。毎回ではありませんが、とても個人的な思いからだったこともあれば、素晴らし過ぎる演技に泣かされたこともあります。それに監督として、少なくとも私は、役者たちと親密な結びつきを感じています。彼らに対して責任がありますし、感情的にも入り込んでいるのです。ですから、グレタが子どもを持てないと思って泣いている時、私は本当に人が泣く姿を見ています。ウソ泣きではなく、彼らは泣いているのです。こちらまで泣けてくるのは当然でしょう。そう言えば、ひとつ驚いたことがありました。ビリー・クラダップとアネット・ベニングがバーで踊るシーンで、彼が彼女を誘い、アネットが踊りの手本を見せるところです。そこでなぜか私はとても柔らかな、人間的なやさしい気持ちになり、いつの間にか泣いてしまって、気づいたら「カット!」と叫び、「海風に当たってくる!」というようなことを口走っていました。思いもよらない感情がわきあがったのです」

 

……映画にはパンクミュージックがたくさん使われています。監督にとってもパンクミュージックはどのようなものですか?

「僕にとって、パンクのエネルギーは幸福感を感じるものでした。パンクを聞くと、目を閉じた状態で自由に向かって走っているように感じました。エルトン・ジョンからザ・クラッシュまで、ほとんど夜通し聞いていたのを覚えています。この音楽を発見するまで、カルチャーというものにそれほどの関心を持ったことはありませんでした。僕は、映画を作るにあたり、そのときのエネルギーや情熱を映画の核にしたいと考えました。音楽は『20センチュリー・ウーマン』の登場人物であり、映画にはさまざまな種類の音楽が出てきますが、僕にとって、この作品はそのリズムと人間の持つ矛盾という両面で、本質的にパンク映画だと考えています」

 

……映画の舞台となるサンタバーバラは、どんな街ですか?

「サンタバーバラは、ほぼパーフェクトな天気に恵まれた比較的裕福な人の住む沿岸のビーチタウンです。僕がサンタバーバラで育った時代は、まだヤッピーという言葉さえなく、お金持ちの服装も今とはまったく違っていました。オプラ・ウィンフリーも住んでいなかったですし。退屈で忘れ去られたような感じの、むしろ“グレイ・ガーデンズ”みたいでした。資産が尽きた名家があって、多くが荒れ放題という状態で、まさにアメリカの物語を反映しています。当時、サンタバーバラは中間層とそれより上の層が混在していましたが、今はものすごい金持ちか貧乏かのどちらかです」

 

……映画に登場する、ドロシアとジェイミーが暮らす家もとても魅力的ですが、何かこだわりはありましたか?

「僕たちは家についてたくさん議論する必要がありました。どれくらいの大きさであるべきか、中に人が入ったときの見え方、レイアウトなどです。しかし最も重要なのは、家に重みが感じられなければならないことでした。ヒビや傷は、温もりや歴史を感じさせるものです。ドロシアの部屋に僕の両親が実際に使っていたベットカバーがあります。イスやいくつかのアートもそうです。ごくわずかなことですが、その物が持つ説明できない不思議な魔法を映画に吹き込むことができました」

 

 

 

640

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『20センチュリー・ウーマン』’16年/米/119分

監督・脚本:マイク・ミルズ

出演:アネット・ベニング、エル・ファニング、グレタ・ガーウィグ、ルーカス・ジェイド・ズマン、ビリー・クラダップ

※6/3(土)よりKBCシネマ、シネプレックス小倉にて公開

http://www.20cw.net/

 

(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


PR
2017.6.20号
monthly cover artist
デジタルブックを立ち読みする

フライング・ポストマン・プレス HOME

fppshop
FPP×AFRO FUKUOKA