エンターテインメントフリーペーパー フライング・ポストマン・プレス

フライング・ポストマン・プレス 福岡版

2016/11/25

同世代のクリエイターとキャストで紡ぎ出された“新時代”の青春映画

掲載用

蒼井優(スタイリスト:森上摂子/shirayamaoffice、ヘアメイク:赤松絵利/esper.)

 

 

「ここは退屈迎えにきて」などで知られる作家・山内マリコの小説を、主演に蒼井優を迎え映画化した『アズミ・ハルコは行方不明』。とある地方都市に住む28歳OL・安曇春子の失踪事件を軸に、“アラサー、20歳、女子高生”といった三世代の女性たちの生き方を浮き彫りにしていく。原作の時系列を緻密に組み替え、アニメーションやプロジェクションマッピングも取り入れたテンポ感のある映像世界で、独自のスリルと愛に満ちた新たな青春ラブストーリーを構築。本作でメガホンを取ったのは、『アフロ田中』(’12)、『ワンダフルワールドエンド』(’14)など、ポップで刺激的な作風が高い評価を得ている若き才能・松居大悟。決して守りに入らず、攻め続けることで“新時代”の青春映画を創り出した松居監督、それに呼応した主人公・安曇春子役の蒼井優。これからの日本映画界を支えていく福岡出身のふたりが語る“アズミ・ハルコ”の世界とは?

 

……監督が原作を読んで映画化したいと思った魅力はどういったところでしょうか?

松居「山内さんの原作が持つ、文字なのにすごく匂いを感じるようなところです。「なぜこの人は僕が見た景色を知っているんだろう?」と思うような。車のダッシュボードから見える景色がそれなりに全部揃っている街並みなんだけど、なぜか胸を押し潰されるような感覚があって。山内さんの原作にある文字で感じられたことを、映像にすることって今、やる意味があるなと思いました」

 

……安曇春子役に蒼井さんを起用された理由をお聞かせください。

松居「僕がまだ福岡にいた頃からお芝居などを拝見して憧れの人で、いつか一緒にお仕事できたら良いなと思っていました。映画の企画を練り始めた時に、主人公の春子、そして僕とプロデユーサーがちょうど同い年だったこともあり、ぜひ同世代の方でとふたりで「せーの」で真っ先に出てきたのが蒼井優さんでした。春子は行方不明だけど、そのいない間もどんどん膨らんでいく存在感が必要だということ、さらに行方不明者の写真をグラフィティ・アートにした時に、観客が「あっ、この絵は安曇春子だ」とパッと見てわかる顔。蒼井さんはその印象と存在感がすごくありました」

 

……実際に春子役のオファーを受けた時のお気持ちは?

蒼井「私も、監督、プロデユーサーが同じ年ということで、すごく新鮮なオファーだなと感じました。今までは年上の監督しかお仕事したことがなかったので、「いよいよ、そういう同い年の人たちと仕事ができる歳になったんだ」とまず喜びがありましたね。本を読んだ時、私は安曇春子とまったく同じような経験をした訳ではないけど、自分のことのように思えてこれはきっとご覧になる女性の方もそう思ってくださるんじゃないかと。でも男性はそうとらないだろうし、受け取り方によって異なる映画になるところが面白いと思いました。出来上がりが想像できなかったことも、私たちが今やるべき映画ってこれなんじゃないかなって。同い年で手を取り合って突き進んでいくことが、「守りに入る世代や年齢じゃないぞ、攻めろ」って言われている気がして「やろう!」と思いました」

 

……蒼井さんが「自分のことのように思えた」具体的なところは?

蒼井「30(歳)手前になると人生の肉離れを起こすんです、第二思春期を迎えるような(笑)。男性はどうか分かりませんが、女性の場合、私の周りは皆30手前にそうなっていて、春子はまさにその真っ只中にいて、超えようとしている時期を描かれています。別に死にたい訳ではないけど「私、いなかったことにしてくれないかな」と思うような。過去も未来も全部なくて良いから今歩いている道じゃないところに行けないかな、という考えるだけ無駄なことしている。何も変えられないのに過去を振り返ったり、前を見ても人生の肉離れを起こしちゃってるから進めないような。そういう立ち止まる時期って女性にはあって、「なぜ女子高生の頃は、あれだけ無敵で最強だったんだろう」とか私自身も考えたりすることがあって、まさに安曇春子の中で起きていることだったんです。彼女と私の中で起きていることが同じで、すごく面白い物語だなと思いました」

 

……蒼井さんの顔がグラフィティ・アートになって街に溢れ、拡散されていく。率直にどのような心境でしたか?

蒼井「こんなに使われると思っていなくて、日本テレビの会議室でチャチャっと撮った写真だったんですけど、何かの参考用の写真かなと思っていたのでボーッと撮ったので、もうちょっとちゃんとした写真を撮っとけば良かったなと思いまいした(笑)。」

 

……原作の時系列をランダムに組み替えた意図はどういったところでしょうか?

松居「最初に読んだ時、文字としてはすごく面白いけど、そのまま映像にすると、春子が行方不明になっていく過程を追うだけの、そのままでしかない。文字は想像できるから良かったけど、実際に生身の映像で立ち上げていく上で何が必要だろうと思って。それで本を読み終わった時の“行方不明”って言葉がネガティブなイメージじゃない何か爽快感を覚えたので、文字や情報、レッテルにとらわれないものにしたいと思いました。高畑充希が演じた20歳の愛菜という存在が春子を追いかけること、そして対照的なふたりが出会うことを軸に、小さな町の出来事であり、愛菜が春子と近しい経験をしていって、どんどん春子に近づいていくような物語をイメージした時、ふたりの時間軸を混ぜていくことで、行方不明になる春子をただ追うだけのストーリーではなく、自分たちの居場所や、傷つきながらどう生きていくのかをそれぞれの世代で感じてほしくて、時系列を変えていきました」

 

……蒼井さんは同世代とお仕事をされる中で、意思の疎通が取りやすかったりしたことはありましたか?

「私自身、女子中学生の頃から何も分からず仕事を始めて、高校生で無敵になりエネルギーが増幅してそのまま走り続けていた中で、何となく自分のペースが分かってきたような、そうでないようなという、走っていたのが急に競歩っぽくなってくる状態にあって(笑)。お芝居を始めた最初の頃は、すごく遠い存在として先輩がいるから、どうにかその先輩たちとお芝居で通じ合えたら良いなと思っていたからがむしゃらにやってこられたけど、今度は先輩と読んでくれる後輩が出てきて、28歳くらいになると一人でトボトボ歩いているような感覚があって。でも、ふと周りを見ると、同い年の満島ひかりちゃんや松田翔太くんとか、皆一生懸命歩いていることが、嬉しくてしょうがなかったんです。そのタイミングでこのお話をいただいて、これまでも同じ世代の役者さんはいたけど、監督やプロデューサーも同い年で一緒に仕事できる人たちがいることに心強さを感じて。実際に仕事してみるとエネルギーが倍増していく感覚が芽生えたし、自分たちの世代で映画を創っていく時が来る…その来る日のために!みたいな一本の映画に臨むというよりは、“映画”という大きい括りの視野を持てたことが幸せでしたし、夢があるなって思いました」

松居「今回は僕もその意識が強くて。これまで熱くやってきたメンバーで、今までよりも規模がちょっと大きくなった時に、守りに入るような作品は作りたくなくて、これまでカウンターでやってきたので、それを通していこうと。だからこれまでの邦画っぽいものを作る気はなくて、この世代で気を使わず意見を出し合って、これまでに観たことのないものを目指しました」

 

……蒼井さんと石崎ひゅーいさんの掛け合いが、より日常の普通っぽさを深めているように感じましたが。

蒼井「ずっと曽我役が決まらなくて、監督が石崎ひゅーい君を推して決まったんですけど、彼で良かったなと思うのは、私に経験があることで技術的な芝居をしてしまう麻痺した感覚があって、一番注意を払っているけどこびりついた垢みたいなものが出ちゃうことがあるんです。映画にとって、すごく危険なことだけど、ひゅーい君は舞台を一度経験されてますが映画は初めてだったので、私も自分の芝居に対して嘘が入るとことか麻痺しているところの警戒心を常に持たせてくれたんです。だから彼を推した監督って、すごいなと思いました(笑)」

松居「最初に「石崎ひゅーいにしようと思う」と話をしたら皆「誰?誰?」みたいになって、めっちゃ説得しました(笑)。彼の持って生まれた感性や吸い込まれそうな感じが、曽我のイメージだなと。実際にひゅーいは、カメラを回してると目が離せないんです、何をしてくるか分からないから(笑)。春子が見た曽我もきっとそうだったと思うし、それでいてこの人と一緒にいたら居心地の良さもあるような独特な雰囲気が出ていましたね」

 

……それぞれに印象に残っているシーンは?

松居「春子がタバコを吹かす同じシーンが、最初、中盤、最後にあって、それを軸に脚本を組み立てていったんですけど、それぞれ微妙な違いを出すため実は25テイクくらい撮ったんです。その後、女性の編集スタッフに編集してもらっていたら、「ラストってこれじゃないほうが良くないですか?」と言われて、ふざけんじゃねぇ!とか思いながらも、そのスタッフに任せて入れ替えたら超良くて! だから最後のシーンは、これにして本当に良かったなって観る度に思います(笑)」

蒼井「私は、春子が曽我にフラれそうになるシーンですね。原作にはないエピソードで、最初は春子が感情的になって、セリフと頭の中にある言葉が一緒という設定で、自分の思いだけをぶつける芝居をしていたんですけど、絶対違うなと。それで監督に相談したら「言葉が先に出て感情が後からついてきたり、その逆だったりというズレみたいなものをやってほしい」とアドバイスをもらったことで、脚本の面白さを芝居で伝えることができたシーンでした。でも監督からOKが出た後に、方向性が見えたからもうひとつ先の芝居ができたかもと思って少し不完全燃焼でしたが、出来上がりを観た時にやっぱりここで止めておいて良かったんだな、と納得しましたね。自信を持ってやると、例の私のこびりついた垢みたいなものがスクリーンに映っちゃいますから(笑)。そういう意味では、芝居的にも良い経験をさせてもらえました。あと高畑充希ちゃんが「愛菜が分からない」って悩んでいたんです。みっちゃんと愛菜って本当にまったく違う人格なので。そんな姿をずっと見ていたんですけど、春子と愛菜が会話するシーンがあって、私が彼女を呼んで、みっちゃんが振り返ったその表情が愛菜でしかなかった時に、すごく素敵なものを見られた気がして本当に嬉しかったです」

 

……脚本を読んだ時は出来上がりが想像できないとおっしゃれていましたが、実際に完成した作品をご覧になってどのように思われましたか?

蒼井「自分が想像していたラインを突き破った作品になったなと思います。先ほどの時系列をぐちゃぐちゃに崩したことによって生まれたエネルギーが確実にあったし、音楽やアニメーションという色んなものがガチャガチャに混ざり合っているけど、たまらない映画ができたなって。自分が出てる作品ってシリアスに厳しく観てしまいがちだけど、他のパートがあることによって今までに出演した映画と比べて客観的に観られたし、率直に「私この映画、好きだな」と思えました。こういった作品を作れたことが、映画界に生きる者として、そしてひとりの人間として、背中を押してくれる映画になりました」

 

 

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©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

 

 

STORY

突如、町中に拡散される女の顔のグラフィティ・アート。

無差別で男たちをボコる、女子高生集団。

OL・安曇春子(28歳)の失踪をきっかけに

交差する、ふたつのいたずら。

これは、アズミ・ハルコの企みなのか?

ハルコが消えた“本当”の理由とは?

 

 

『アズミ・ハルコは行方不明』’16年/日/100分

監督:松居大悟 原作:「アズミ・ハルコは行方不明」山内マリコ(幻冬舎文庫)

出演:蒼井優、高畑充希、大賀、葉山奨之、石崎ひゅーい、他

※12/3(土)よりT・ジョイ博多、他にて公開

http://azumiharuko.com/

 

 


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