エンターテインメントフリーペーパー FLYING POSTMAN PRESS

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サカナクションの6年半ぶりの新作『834.194』が完成した。2枚組全18曲のうち、既発のシングル曲が半数。ではシングルの寄せ集めのような内容かと言えば、まったくそうではない。それぞれの楽曲が新たなコンセプトのもとに再定義され、然るべき場所に配置されることで違う響きで鳴っている。特に『ワンダーランド』から『さよならはエモーション』『834.194』『セプテンバー』と続くアルバム後半の流れは圧巻だ。バンドの中心人物、山口一郎に話を聞いた。

僕らが広げることに怖さがあったのは、
広がった先のゴールがなかったから

——前作から6年半です。さすがに長かった。
「作れなかったんですよね。前作『sakanaction』(2013年3月)の時に、目標があったんですよ。セールス20万枚とアリーナツアーをすべてソウルドアウトにすること。その両方とも達成し、じゃあこの後どうするか。それ以上の結果をめざすなら、自分たちがそれまで築いてきたバランス、アンダーグラウンドとオーバーグラウンドを行ったり来たりするそのバランスを崩し、もっとオーバーグラウンドの方に踏み込まなきゃいけない。それはもっとテレビに出て、もっとわかりやすい曲を書かなきゃいけない、と。でもそれは絶対無理だと思った。そして出したのが『グッドバイ/ユリイカ』『さよならはエモーション/蓮の花』というシングルでした。その頃の僕らは一番勢いのある時期だったけど、その流れに逆らって、あえて内省的な、潜っていくような方向に向かっていったんです」
——そうですね。
「そうしたら大根仁監督から映画『バクマン。』の音楽の話が来た。大根さんが求めていたのは内省的なサカナクションではなく、キャッチーでミクスチャーな、いわばそれ以前のサカナクションのイメージでした。映画音楽は新しい挑戦だったから、新たな気持ちで『新宝島』を作ったんです。そこで、それまでの内省的な自分たちと、外に向かおうとする自分たちが乖離しちゃったんですね。僕らが広げるってことに怖さがあったのは、広がった先に、広がった人たちをどこに連れていけばいいか、というゴールがなかったからかな、と思って」
——連れていく必要はあるんですか? そこまで責任を負う必要があるのか。
「うーん……でもそうするとモチベーションが保てなくなるんですよ、広げるということに関して。“ライフ・ワーク(生涯の仕事)”と“ライス・ワーク(食べるための仕事)”があるとしたら、自分たちは“ライフ・ワーク”として音楽をやりたいじゃないですか。でも“ライフ・ワーク”として音楽を続けていくために“ライス・ワーク”もやらなきゃいけない。でも“ライス・ワーク”をやるためには、理由や大義が必要で。この先、外に広げていく作業をするために、どこに連れていくかという大義がないとダメだと思ったんです。なんのためにメジャーでやるか、なんのためにフェスに出るのか。連れていく先があれば、それをやる意味が出てくる。自分たちをきっかけに、みんながもっと違う音楽を知ったり、音楽以外のいろんなカルチャーに繋がっていくことができれば、それが僕らのモチベーションになる。そういうハブで居続ける。一人ひとりに“自分はサカナクションが好きだから、これも好きになった”と思ってもらいたい。100万、200万売ることじゃなく、そういうきっかけになることでシーンに爪痕を残す方がいいな、と。つまりそういうゴール、全体像を描くことがサカナクションのコンセプトというか立ち位置なのかなって」

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