
虚像に近かったパスピエが生身のバンドになっていく手応え
- ――メンバーはそれぞれどんな思いでアルバムの制作に臨まれましたか?
- 三澤勝洸(G.)「アルバムを出すたびに自分たちのハードルが上がっていくので、自分たちがおもしろいと思える音楽を作るため、今回は自分のギターフレーズだけを考えるんじゃなく、他の楽器との絡みやバンド全体を意識したアレンジを試行錯誤したことがこのアルバムに繋がっているんじゃないかと感じてます」
- 露崎義邦(B.)「これまで出したアルバムに対するリスナーの反応、さらにその曲をライブで演奏した時のオーディエンスの反応を踏まえつつ、バンドのアンサンブルを高めてきた経験値が今回の作品には反映されていると思います」
- やおたくや(Dr.)「今回、パスピエのドラマーとしてどういう音を出すべきかを考えました。だから今回は大胡田の声やギターやキーボードを活かすため、ドラムセットを変えたりして。自分としては、“ここからパスピエのドラムを作っていける”と思える、そういうきっかけのアルバムになりました」
- ――これまで言葉遊びや想像や空想、妄想、比喩などを多用し、フィクショナルなポップ感覚を追求してきた大胡田さんの歌詞もここにきて、大きく変化しましたよね。
大胡田なつき(Vo.)「アルバムの全12曲が揃った時点で気付いたことなんですけど、今回は想像で書いた曲はほとんどなくて。すべての曲が実体験をもとにしていたり、自分やパスピエが置かれている状況を例えとして歌詞に反映していることが多いです。これまで作品をリリースし、いろんな場所でライブをしたり、今年の12月に初めての武道館ライブを控える中で、これまでは虚像に近かったパスピエが生身のバンドになっていく手応えが自分の中にあって。そういう感触が無意識のうちに歌詞に反映されているんじゃないかなと思います」
- ――作品の流れとしては、シンフォニックな序盤から、中盤ではパスピエらしいダンサブルでポップな側面が凝縮されています。
- 成田「そうですね。配信を通じて、曲単位で音楽が聴かれるようになった今の時代にあって、アルバムを聴き進めていったからこそ見つかる“何か”をこちらから提示し、意味のあるものにしていかないとアルバムを出す意義も薄れてしまう。だからこそ曲の流れを大切に考えているんです。さらに言えば、これまで出してきた作品を通じて、リスナーやオーディエンスが考えるパスピエのイメージに応える曲も作っていかないといけないということも意識しました」
- ――そして、後半は予想を裏切るメロディ進行や変拍子が満載のプログレッシブなポップスが怒濤のように押し寄せますね。
- 成田「今はいろんな音楽が溢れているからこそ、ライブを念頭に置いたアッパーな曲、ノリやすい曲がたくさん生み出されていると思うんですけど、パスピエとしては、CDリスナーのための“考えて聴く音楽”も提示していきたいんです」